第115話 ザンタリエル帝国
アクザリエル軍とジュスランが戦火を交えている時、隣の国でも戦いが始まろうとしていた。
「アースレインはすでに国境を越えて、我が領内に侵入しています。その兵数、十五万!」
その報告を聞いて、ザンタリエル帝国のブッガンダ皇帝は、軍の出撃を命じた。
ザンタリエルは象の国と呼ばれるほど、多くの象が暮らしている。その象を調教して、戦いの為に訓練した象を戦象と呼んだ。巨大で戦闘力のあるその戦象の部隊がザンタリエル軍の主力であった。
戦象一万頭と三十万の兵が、クリシュナが率いるアースレイン軍を迎え撃つために動き出した。ザンタリエル軍の総大将であるビフリンガは、戦象が戦い易い戦場をその迎え撃つ場所として選んだ。それはザンタリエルの北に大きく広がる大草原、リフーナ草原である。
「敵の戦象部隊をどうするかですね、クリシュナ大将軍」
副官のシュザインの言葉に、クリシュナも頷く。
「逆に言えば、戦象部隊を片付ければ、我らの勝利が見えてくる」
戦象部隊に対抗するには、それを上回る力で抑えるか、戦象を操ってる乗り手を倒して戦象のコントロールを失わせるか・・幸い、アースレインには多数の巨人族の兵がいる、彼らなら戦象にも力負けしないだろう。
リフーナの戦いは、ザンタリエルの誇る戦象部隊の突撃から始まった。一万頭にも及ぶ戦象の突撃は、まさに大地を揺らす大行進であった。そんな強烈な突撃を人の兵が受ければ一溜まりもない、アースレイン軍は、両脇に広がるようにそれを避けて行った。
中央をさらに進む戦象部隊は、深くアースレインの陣まで突き進み、そこで初めて壁にぶち当たったて突撃を停止した。その壁は、アースレインが誇る巨人族の兵たちであった。突撃が停止した戦象部隊に、左右に分かれたアースレイン軍が弓を放って攻撃する。象の硬い皮膚には矢など通用しないが、上で戦象を操っている人の兵には十分な効果があった。次々と戦象はコントロールを失う。
主力の戦象部隊の突撃を止められ、ビフリンガは焦る。すぐに戦象部隊を助けるべく十万の兵を前進させた。
この展開はクリシュナに読まれていた。事前に左右から敵の応援部隊を叩く為に、アズキとアリューゼの師団が準備をしていた。前進して突出した敵部隊に対して、挟み撃ちにするように攻撃を開始する。
足を止められた戦象部隊であったが、それでも暴れまわるだけで驚異の存在であることには変わらない。巨人族の兵たちは、なんとか戦象を抑えることができているが、他の兵たちは、油断するとその巨体の下敷きになり、命を失う兵も少なくなった。
戦象はまだ一万頭近くいるのに、巨人族の兵は千人くらいしかいない。突撃を止めることはできても、殲滅するのは難しい状況であった。クリシュナは試験的に編成されている秘密兵器を投入することにした。オーウェンに絶対使うようにしつこく言われていたので丁度良い。
三十ほどの巨大な鉄の塊が、巨人族の兵をかき分けて前に出てきた。それは魔道兵器のアイアンギガーであった。すべてのアイアンギガーが巨大な剣を持っている。その刃は戦象の体より巨大で、驚異的な殺傷能力は見るだけで予想ができた。
一撃で戦象を真っ二つに切り裂く攻撃力は、クリシュナを驚かした。
「あれはでかいだけではないようだな・・」
「腕力は巨人族の戦士より上かもしれませんね」
アイアンギガーは、力強い上に驚くほど早く動く。戦象を秒殺していき、5分後にはその大半を切り倒していた。魔力が続く限り動けるアイアンギガーは、疲れを知らない。敵がどれだけ多くてもその戦闘力が落ちることはなかった。
戦象部隊を壊滅させると、アイアンギガー部隊はそのまま直進する。敵中央を潰して、その陣形を崩壊させる為であった。
左右から攻撃を仕掛けていたアズキとアリューゼの師団は、アイアンギガー部隊の動きを見て、中央に切り込み始める。既に左右の部隊の大半を崩壊させている両師団は、大きな戦果を上げていった。
その動きを後方で見ていたルソ師団とジュゼ師団も、ここが勝負どころと動き始める。二つの師団は、広いリフーナ草原を利用して大きく回り込む。ルソとジュゼは一気に後方の本陣を責める気であった。
「戦象部隊が全滅だと・・・」
ビフリンガは絶望の報告を聞いていた。まさか最強だと思っていた自慢の戦象部隊が、これほど早くやられるとは想像もしていなかった。しかし、まだこちらの方が兵力は上だ・・そう思うことで辛うじて気力を失わずにいた。
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