第114話 戦火
「ドラグネ族を片付けられないどころか、二十万もの兵を失うとは何をやっているのだ!」
アクザリエル帝国、その皇帝は怒りに震えていた。簡単に終わると思っていた命も達成できずに、大損害を受けて帰ってくるのなど考えられないことであった。
「申し上げます皇帝陛下。相手はドラグネ族の竜騎士だけではなかったのです。どうやらあのアースレインが手を貸したようで、巨大な竜が我が軍の大半を屠ったのです」
「何・・アースレインだと・・辺境を統一したという蛮族の国か」
「はい。しかもアースレインは今、我が帝都に向かって進軍してきていると報告が入っています」
「ふざけたことを・・・我が国が北方平和協定に加盟していることを知らぬらしい。すぐに北方全国家に使者を送れ! アクザリエル帝国が、蛮族、アースレイン王国に先制攻撃を受けたと!」
「しかし、使者は送るとしまして・・北方の国々の援軍が来るまでどうしましょうか・・」
「すぐに軍を集めろ! 援軍が来るまでに返り討ちにして、北方に我がアクザリエル帝国の名を示してくれるわ!」
こうして、アクザリエル帝国の全土から兵が集められた。貴族の私兵や傭兵など、その数、二十万。それに正規軍の二十万を加えて、四十万の大軍となった。破壊されたバリスタも、再度製造されて配備される。
アクザリエル帝国は北方平和協定の恩恵によって、長年、大きな戦争をしていなかった。それが今は仇となり、まともな防御施設がないアクザリエル帝国内を、大きな障害もなくジュスランの率いるアースレイン軍は進軍していた。
「それにしても歯ごたえのない国だな・・これだけ自由に進軍させてもらえるとは・・」
ジュスランの言葉に、副官のメイメーヨも同意する。
「ですな。しかし、その分どこかで一気に反撃に来る可能性があります、最後まで油断はできませんよ」
「そうだな・・」
そのメイメーヨの考えは、大軍の登場で証明された。帝都の手前の平原で、アクザリエル軍は待ち構えていた。総兵力四十万。それはアースレイン軍の四倍以上の大戦力であった。
両軍はしばらく睨み合いを続け、相手の出方を待っていた。
「動かないな・・」
「そうですね。兵数では向こうが圧倒的に有利なのに、積極的な行動に出ないのは、それほど軍の強さに自信がないのかもしれませんね」
「長年、大きな戦いを経験していない国だからな、これだけの規模の戦いになると、腰が引けてるのかもしれんな」
「それでは・・」
「うむ。仕掛けるぞ。師団長を集めてくれ」
ジュスランの呼びかけで、ガゼン兄弟とシュナイダーが集まる。
「どうするんですか、総大将」
「さっさとやっちゃいましょう」
ガゼン兄弟の二人は戦う気満々である。シュナイダーは冷静に作戦を聞いてきた。
「数はかなり向こうの方が多いですが、どうしますかジュスラン大将軍」
その問いに、ジュスランはこう答えた。
「確かに数は多いが、陣形は隙だらけだ。突出している左翼が特に叩きやすそうだな。そこから陣形を崩していこうと思う」
「ならば、私に先鋒をお任せください」
シュナイダーがそう願い出ると、ジュスランはそれを了承した。
敵の左翼に、迂回して接近したシュナイダー師団は、一気に距離を詰めて攻撃を開始する。大きく陣形が広がっているアクザリエル軍は、他の部隊との距離がある為に、その多くが攻撃に気がついてなかった。
敵の左翼の軍の指揮官であるバズラットは、シュナイダーの攻撃に、包囲して殲滅するように指示を出した。左翼はさらに広がりを見せてシュナイダーの師団を囲むように陣形を変形させる。そこにアースレインの第二波が攻撃を開始した。ガゼン兄弟の師団が、シュナイダー師団を包囲する敵軍を、さらに後ろから攻撃する。急激に広がった陣形は脆かった。バズラットの軍は、シュナイダーとガゼン兄弟の師団にあっという間に半壊させられる。
敵軍のほとんどはその間、ジュスラン大師団に引きつけられ、軍を動かすことができなかった。その左翼の崩壊に気がついたのは、すでにシュナイダー、ダグサス、ウェルダの各師団が後方に引いた後であった。
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