第113話 アクザリエル侵攻

ドラグネ族の集落の中心にある、普段は集会場などで使われる建物の一室で、ドラグネ族の郷土料理を食べながらエイメルたちは話をしていた。

「ヒュー。それで足は大丈夫なのか」

足の腱を切られたヒュレルを心配してそう声をかける。

「エイメル様。心配かけてごめんなさい。ここには良い魔法医の先生がいたのでもう歩けるくらいに回復してます」

「そうか、ならよかった」


裕太と一緒にやってきているアルティとリリスも、郷土料理をご馳走になっていて、すでに二人とも10人前は食べてる。アルティはこの山で採れる果物が気に入ったようで、追加でそれを500個くらいは食べていた。食べ物を運んでくるドラグネ族の婦人たちがその食べっぷりを見て唖然としている。


「それよりエイメル様。どうして王であるあなた自ら、我らを助けに来てくれたのですか」

グルフィンの問いに、豆の煮たやつを食べながら答える。

「急がないと間に合わないと判断して、すぐに援軍を送ろうと思ったんだけど、軍のそのほとんどが出払ってて居なかったからね。自分が行くしかなかったんだ」

「出払っているとは、どこへ軍を出しているのですか」

「ザンタリエル帝国、アクザリエル帝国、イシュキリエル帝国にそれぞれ軍を派兵している」

「なんと・・・その三国と同時に戦うのですか」

「そうだ。どっちみち北方平和協定で繋がってるみたいだから、最初から戦っても大して変わらないだろ」

だとしても大胆な・・この人は北方全てを相手に戦うつもりなのだろうか・・


そう、今アースレインは軍を三つに分けて行動していた。ザンタリエル帝国にはクリシュナを総大将に、アズキ、アリューゼ、ルソ、ジュゼの四人の上位将軍の編成で、総兵力十五万の軍勢が国境近くで展開している。イシュキリエル帝国にはブライルを総大将に、ブリトラ、アッシュ、ヴァルガザ、ランザックの四人の上位将軍の編成で、総兵力十五万がすでに国境を越えて進軍していた。


アクザリエル帝国には、ジュスランを総大将として、ダグサス、ウェルダ、シュナイダーの師団が帝都に向けて軍を進めていた。また、アクザリエル方面には、後詰でファシーとヒュレルの師団、そしてエイメル近衛師団が待機していた。後詰の指揮は、今は軍師フィルナがとっている。


そんな話をしていると、部屋に重症でフラフラのドラグネ族の族長であるカリュネスが、脇を二人に支えられながら入ってきた。

「カリュネス様、まだ動いてはいけません!」

そうグルフィンに注意されるが、それを手で静止してそのまま歩みを進める。

「アースレイン王ですね・・・私はドラグネ族の族長・・カリュネスと言います・・」

「深い傷のようだな・・無理せず休んだ方がいいんじゃないか」

「・・心遣い有難うございます・・しかし・・私はすぐにでもあなたと話をしなければいけません・・・」

「わかった。話を聞こう」

「有難うございます・・・では・・本題から話します・・我らドラグネ族を、アースレインに従属させてもらえませんか・・」

「それは喜ばしいことだが、お前たちは誰の下にもつかないのではないのか」

「私は・・今回・・家族を・・息子や妻を守ることができませんでした・・多くの民を死なせ・・我が身もこの無様な姿・・自分の無力を知りました・・あなたは王である身ながら、遠い地から我々を助ける為に駆けつけてくれました・・それだけで信頼に値する人物だと判断できますが・・・お会いしてさらに確信しました。ドラグネ族の全てをお任せするべき人だと・・・お願いします・・どうか我らを導いてください・・」

「カリュネス・・わかった。ドラグネ族は今より俺の臣下だ。ドラグネ族の繁栄を約束するぞ。だから、最初の命を与えるぞカリュネス。今は傷を癒す為にゆっくり休むがいい」

「は・・・ありがたき言葉・・」


カリュネスはそう言って下がっていった。


「さて・・それじゃ、ドラグネ族の為にも、早めにアクザリエル帝国を制圧しないとな・・」

そう俺が言うと、ファシーが質問してくる。

「もう、ジュスラン様の軍がこっちに向かっているのですよね」

「いや、ジュスランには直接、敵の帝都に向かわせている」

「それではジュスラン様が帝都で孤立しませんか?」

「そうならないように、後詰の軍がこっちに向かっている。後詰にはファーとヒューの師団もいるから、合流したら二人とも指揮頼むよ」

「はい!」

二人の声がハモった。

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