第112話 脅威の力
グルフィンは、二回目の攻撃をアクザリエル軍に繰り出す為に、敵のバリスタの射程外を旋回し始めた。次の一撃で、バリスタの大半を破壊しなければ、ドラグネ族に勝ち目はないと考える。確かに多くのバリスタを破壊するのは可能であろう・・だがこちらの被害も相当なものになる・・そう思うと、突撃の指示を出すのをためらった。
だが、このままアクザリエル軍に山を登られ、里まで雪崩れ込まれれば、もうどうすることもできなくなる。どうしてもここで敵軍を叩く必要があった。
「敵のバリスタを集中して狙え! 次の一撃で大半を破壊するぞ!」
グルフィンの言葉に、竜騎士たちは声を上げて応える。
「突撃・・」
グルフィンがそう声を上げようとするが、劇的に変わった空気によってそれを中断した。まだ日が落ちる時間ではないのに一瞬で周囲が暗くなる。異変に気がつき周りを見ると、竜騎士団は何か大きな影の中にいることに気がついた。
「何だアレは・・・」
上を見ると、巨大な竜が空を飛んでいる。それは神々しく優雅に飛行していた。少しずつ高度を下げてきて、竜の背中に人が乗っているが見えた。
「おーい! 君らはドラグネ族の竜騎士だよね」
竜の背中の人がそう聞いてくる。グルフィンは一瞬戸惑うが、素直に答えた。
「そうだ。ドラグネの竜騎士長のグルフィンだ」
「そうか。それじゃ、君らを助けるから突撃するのは待ってくれ」
「助ける?」
「バリスタを俺らが破壊するから、それまでちょっと待っててくれ」
「な・・あなたらはいったい・・・」
しかし、その質問には答えずに巨大な竜は急降下する。そして竜の口から白銀に輝くブレスが放たれた。強烈な勢いでバリスタが破壊されていく。さらに竜から人の影が飛び出した。それは黒い翼の女性に見える。彼女からも、信じられない威力の魔法が放たれる。巨大な穴が出来上がるほどの魔力球がアクザリエル軍の中心に落ちて、大量に蒸発させる。
見ているのが気持ち良くなるほどの鮮やかさで、下にいるアクザリエル軍は徹底的に叩かれる。見る見るうちにバリスタの数も少なくなっていった。幾つかのバリスタの攻撃が竜に命中しているみたいだけど、全くダメージを受けてないようだ。あのバリスタの矢を食らって、簡単に跳ね返す防御能力は驚異的である。
バリスタの数が減ったのを見て、グルフィンは竜騎士に攻撃を命じる。
「一気にアクザリエル軍を叩くぞ! 全員突撃!」
その声を聞くと、竜騎士たちは一斉に下降していった。
「何だあの巨大な竜は! 聞いてないぞ!」
「ドラグネ族に、あんな竜がいるなど聞いたことがありません。どこかからの援軍かと・・」
「くっ・・・アースレインか・・」
巨大な白い竜のブレスに、アクザリエル軍は次々と蒸発していく。このままでは被害が拡大するばかりであった。
そんな状況に、ドラグネ族の竜騎士たちが総攻撃を仕掛けてきた。もはや残ってる対空バリスタは極僅かで、その攻撃も防ぐことができない。圧倒的な火力で焼き尽くされていく。
「体勢を立て直す。すぐに全軍撤退しろ」
ドナイデン軍団長は、さすがのこの状況に撤退命令を出した。しかし、山脈の中腹からの撤退である。兵が通れる道も狭い為に、一気に撤退とはいかない。逃げれない兵たちは、ヤケクソ気味に上空に向けて矢を放つが、まず命中すらせず、偶然命中しても、硬い鱗に阻まれて、傷一つ付けることもできなかった。
兵たちは山道を撤退するのを諦めて、険しい獣道や山の斜面をバラバラに逃げ始めた。混乱の中、足を踏み外し崖を落ちる兵も少なくなかった。そんな大混乱の中、撤退に成功した兵は十万ほどであった。数万の少数民族の集落を攻撃して、二十万の被害を出すなどあってはならない敗北である。
敵の撤退を確認すると、グルフィンは竜騎士たちを引き揚げさせる。ふと見ると、いつの間にか巨大な白い竜がいなくなっていた。あの巨体が消えるなど不思議なことであるが、探す必要もないと集落へと戻ることにした。
グルフィンが戻ると、そこに見慣れない異国人が三名と、あの竜人族の少女の一人が、アフランと一緒に出迎えてくれた。
「あなたは竜の背中に乗っていた人ですね。助かりました、礼を言います」
「いや、当然のことをしただけだよ。ドラグネ族は俺との約束を守ってくれた・・ならば俺も約束を守るのは当たり前の事だ」
「約束・・」
「俺はドラグネ族の存続を保証した。ならば存続の危機を救うのは当然だろ」
「あなたはアースレインの・・」
「俺はアースレイン王国の王のエイメルだ。うちのファシーとヒュレルがお世話になったようだし、礼を言うよ」
まさか王様自ら、こんな場所まで我々の窮地を救いに来たと言うのか・・それはグルフィンにとって、衝撃的な出来事であった。
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