第110話 竜騎士

黒衣の騎士の攻撃を、なんとか防いでいる自分を褒めてやりたかった。それほど敵の攻撃は鋭く、早かった。だけどこのままでは殺られるのも時間の問題であろう。なんとか逃げたかったが、二人を相手にしているとは思えないくらいに、敵に隙は無かった。


そしてその瞬間がやってきた。素早い動きからのフェイントに引っかかり、黒衣の騎士の剣が、ヒュレルの右足の腱を断ち切る。そのまま転げるように倒れこみ、立ち上がることができなくなった。ファシーは妹の前に立ちはだかると、短剣を構える。ファシーには、もはや次の攻撃を防ぐ自信はなかった・・


黒衣の騎士もそれを感じていた。次の一撃で、二人のどちらかの命を絶つつもりであった。


そして最強の騎士は動きだす・・


だが、その時、予想外の攻撃が黒衣の騎士に襲いかかった。それは空からの火炎攻撃で、さすがのジベルディもたまらず後方に避ける。

「お客人! 下がられよ! ここは我らが防ぎます」


それは飛竜に乗った、ドラグネ族の竜騎士で、赤い飛竜に乗っているその者は、竜騎士長のグルフィンであった。


グルフィンは、相棒のスティッチに炎で攻撃をさせ、自分は弓で攻撃をする。彼女の弓技は凄まじく、一秒間で矢を十も射る、神速天弓イダテンアローなる技を使う。神速の矢は早いだけではなく、その威力も途轍もないものであった。放たれた矢の一つが、黒衣の騎士の黒く強力そうな鎧を簡単に貫く。そのままその矢の衝撃で、ジベルディは吹き飛ばされた。


さすがに致命傷にはならなかったが、強敵の登場にジベルディは不用意に動くことができなくなった。


竜騎士が現れたのを見て、デナソイエスが周りを見渡すと、五十騎ほどの竜騎士がすでに空を飛んでいた。一騎で百の兵に匹敵するとも言われている竜騎士が五十騎も空を飛ばれては今の戦力では勝ち目がない、すぐに撤退を指示する。

「だから乗り込まれる前に、飛竜を殺せと言ったのに・・・不甲斐ないやつらめ!」


デナソイエスの部下たちは、命令通り、飛竜を一目散に殺そうと動いていた。だが、丁度見回りから帰ってきた竜騎士の偵察隊がそれに気がつき、防がれたのである。


アクザリエル軍が撤退するのを、竜騎士たちは追撃する。上空から飛竜の炎と、竜騎士の矢や魔法で攻撃する。里から逃げだせたアクザリエル軍は五百ほどで、その被害は甚大なものであった。



アクザリエル帝国の兵が撤退してから、集落では、怪我人の手当てや、崩れた建物からの救出など、助けれる民の救助が急がれた。足の腱を切られて動けなくなったヒュレルを人に任せて、ファシーもその救出を手伝う。


そんな中、族長の家を調べていた者が叫ぶ。

「族長が生きてるぞ!」


重症ではあったが、族長のカリュネスは生きていた。すぐに助け出されて、手当を受ける。しかし、かなりの怪我で、助かるかどうかは五分五分であった。


かなりの損害ではあったが、竜騎士の多くは生きていた。飛竜も、飛空所が燃えてバラバラに空に逃げていたが、火が消えたのを見て、戻ってきている。


「戦える者は集まってくれ、いつアクザリエル軍が攻めてくるかわからない。すぐに隊を編成するぞ」


グルフィンの言葉に、健在な竜騎士たちが集まってくる。竜騎士は、騎士と飛竜が揃って初めて成立する。なので、飛竜を失った騎士も、騎士を失った飛竜も、もはや竜騎士としては戦えない。騎士も飛竜も健在な竜騎士は五百名ほどで、千人いた竜騎士は半減していた。


「ファーちゃん。ちょっと・・こっちへ」

「どうしたのヒューちゃん。傷が痛む?」

「違うよ。すぐにこの事を、エイメル様に伝えに行かなきゃいけないよ。私はこの足だから、ファーちゃんがいかないと・・・」

「そうか・・アクザリエル軍が本格的にここを攻撃する可能性が高いよね」

「そう。だから援軍を呼ばないと・・」

「わかった。私が戻って呼んでくる。ヒューちゃんはここで傷を癒してて」

「うん。頼んだよ」


アースレインに一度戻ることにしたファシーは、空を飛ぶ飛竜を見て、あれで送ってもらえないかと考えた。それでグルフィンに話しかけようとしたところ、泣きっ面のアフオンがやってきた。


「大丈夫・・アフオン・・」

「うん・・僕は竜騎士だから・・いつまでも泣いてられない」


それを聞いて、ファシーは閃いた。

「アフオン。あなた飛竜に乗れるのよね」

「え・・うん。乗れるよ。まだあまり上手くないけど・・」

「それじゃ、私をアースレインまで連れてってくれない」

「え! アースレインってどこ?」

「いいからこっちに来なさい」


そう言って強引に連れていく。幸いアフオンの相棒のドゥラフは無事であった。ファシーには、悲しみを忘れさせる狙いもあるのか、アフオンを強引にアースレインまでの送迎に任命する。アフオンも、嫌々ながらも、今まで見たことのない外の世界に、少しだけ心を躍らせていた。

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