第109話 双頭の竜

デナソイエスは、族長の家の者を皆殺しにすると、外の部下に命令を下した。

「里の者を皆殺しにしろ! 竜騎士など飛竜に乗らなければ恐れる必要はない!」


外の兵の合図で、里の下で待機していたアクザリエル帝国の兵が、里へ突入してきた。その兵数は五千。不意をついたこの規模の集落を殲滅するには十分の戦力であった。


アクザリエル軍は、まずは飛竜のいる飛空所を狙った。竜騎士に飛竜に乗られることを恐れているのである。


「あの建物が飛空所だ。火を放って焼き払え!」


ドラグネ族も異変に気がついて、次々と集まってきた。飛空所に火がついたのを見て、すぐに消化しに行く。そんなドラグネ族をアクザリエル軍は容赦なく襲いかかる。


竜騎士として絶対的な力を持っているドラグネ族であったが、陸に降りては、その力を発揮することはできなかった。多勢に無勢のこの状況で、少しずつ追い詰められていく。



ファシーとヒュレルは、山の上の山小屋で、下の里の異変に気がついた。外に出て里の様子を見ると、里が燃えているが見える。

「あ・・里が・・」

一緒に居たアフオンもその光景を見て言葉を失う。


「すぐに里に戻りましょう。アフオン。あなたはここにいなさい」

「そうね。行きましょう」


「ぼ・・僕も行きます」

「ダメです。あなたはここにいなさい」

「そうね。危険ね」

「あれは僕の里です! 家族も、相棒も待ってるし・・僕は行かないと・・・」

「・・・わかりました。私たちから離れないでください」

「そうね。守ってあげます」


ファシーたちは山を降りてすぐに里へ戻った。そこは激しい戦地へと変わっていた。すぐに数人の兵がファシーたちに襲いかかるが、双子の華麗な連携で素早く斬り伏せる。


三人はアフオンの家に向かった。家に近づくに連れて、少年の顔色が不安なものへと変わっていく。


「母さん! 父さん!」

家に着くと、すぐにアフオンは叫びながら家に飛び込んだ。それに続いてファシーとヒュレルも中に入る。だが、家の中はすでに血の海であった。アフオンの母も父も血だらけで倒れていて、すでに事切れていた。そんな家族を見て、アフオンはその場に泣き崩れる。


ファシーもヒュレルもそれを見て、激しい怒りが湧いてくるのを感じていた。

「アフオン・・・家に隠れていなさい」

「そうね。私たちは少し外で暴れてきます」


アフオンの家を飛び出した双子の少女に、いつもの優しい面影は無くなっていた。そこにいるのはまさに鬼神であり、アクザリエル軍にとっては厄災そのものだった。


二人は、目につくアクザリエル兵はすべて斬り伏せていた。凄まじい速さの斬撃と、トリッキーな動きに、数多くいるアクザリエル兵は為す術もなく屍を増やしていく。そんな二人の目に、その辺の雑兵とは明らかに違う気配の集団を見つける。それはデナソイエスと、その護衛であった。


「ヒューちゃん。敵将見たいだよ」

「そうね。ファーちゃん。倒しちゃいましょう」


ファシーとヒュレルは神速の速さで接近すると、取り巻きの数人を一瞬で斬り倒す。そして小太りの敵将を討ち取ろうと斬りかかった。だが、二人の刃は、寸前のところで弾き返された。


「くっ・・」

二人の攻撃を防いだのはシフーカとブガデイであった。二人の剣士は、さらに襲撃者である少女に、斬撃を繰り出して返り討ちにしようとした。だが、その攻撃は簡単に避けられる。そこから二人の剣士と、二人の少女の激しい攻防が始まる。


「おい。早く片付けろ」

デナソイエスにそう言われたシフーカとブガデイであったが、心の中ではこう返事をしていた。簡単に言うな、この女ども只者じゃないと・・


ファシーとヒュレルは、相手がかなりの使い手だと感じて、本気の戦闘モードに移行する。普段二人は、いつ終わるかわからない戦場では、全力でその力を使うことはせず、常に余力を持って動いていた。しかし、手を抜いて戦える相手ではないと悟ると、そのリミッターを解除した。


一瞬で形勢が双子の少女たちに傾く。シフーカとブガデイは追い詰められていき、ファシーの一撃が、ブガデイの体を貫く。ブガデイが倒れ、2対1の状況になると、シフーカは勝てる見込みがないと後ろに引いた。


さらにファシーとヒュレルが後ろに引いたシフーカを斬ろうと前に踏み込むが、異様な気配を感じて、逆に後ろに下がる。


「ヒューちゃん・・気をつけて・・兄様と同じ匂いがする・・」

「そうね。ファーちゃん。危険な匂いよ・・」


シフーカとブガデイでは手に負えないと前に出てきたのは、黒衣の騎士であった。


「そうだジベルディ。斬り伏せろ!」

威勢の良いデナソイエスの声に応えるように、ジベルディが動いた。それは常人では消えたようにしか見えない、凄まじい速さであった。兄、クリシュナとの訓練で、常人でない速さに慣れているファシーとヒュレルでも、辛うじて反応するのがやっとであった。強烈な一撃をヒュレルが剣で受けると、受けた細身の剣がすごい音でブッチと折れる。ファシーは二つの短剣を重ねるように攻撃を受けるが、軽い彼女の体ごと、ものすごい勢いで吹き飛ばされた。


殺られる・・・二人は敵の力量を図り、そう感じていた。

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