第101話 野望の終焉

ジュスラン平定軍は、王宮を包囲する。完全に全方位に軍を置いて、敵をにげれなくした。ジュスランは、敵軍に、ジアーノンのミュラ七世の姿を確認した。ここでミュラ七世を討てば、辺境大連合は崩壊するだろう。辺境大連合との戦いをここで終わらすつもりで、硬い包囲を敷いたのである。


平定軍は、逃げ道を無くすとすぐに攻撃を開始した。


「完全に包囲されているではないか! 辺境大連合は何をやってるのじゃ」

王宮が、敵に完全に包囲されたのを見て、ミヌトン公爵は焦りの表情で部下にそう叫ぶ。だが、その叫びに、部下たちはただ俯いて何も答えることができなかった。すでに、多くに者が、ミヌトン公爵の終わりを感じていたからである。


逃げることもできず、王宮に立て篭もるミヌトン公爵の軍と、ミュラ七世の軍は、攻撃してくるジュスラン平定軍と、圧倒されながらも必死に戦った。王宮の低い城壁から必死に攻撃して、侵入してくるジュスラン平定軍を防ごうとしていた。だが、やはり軍の強さに大きな差のある両軍である、徐々に押され始め、やがてはそのほんとんどの城壁をジュスラン平定軍に制圧された。


王宮の奥に、僅かな兵と潜んでいたミヌトン公爵のところへ、護衛の兵を連れたミュラ七世が逃げ込んできた。

「ミュラ七世! でかい口を叩いた割には、アースレインに一方的にやられているではないですか」

ミヌトン公爵の言葉に、少し眉を細めて言い返す。

「何を言っている田舎公爵が・・貴様が王宮で震えていないで、戦っている我が軍に加勢すればこんなことにはなってないのだぞ」


実際はミヌトンの軍が王宮外での戦いに参加したとしても結果は変わらなかっただろう。それもミュラ七世は理解して、ミヌトン公爵にそう嫌味を言った。

「黙れ・・何が辺境大連合だ・・負けてばかりの弱者の集まりではないか。それもすべて、無能な王が盟主だからではないのか!」


それは誇りだけは気高い、ミュラ七世の怒りに火をつけるには十分な暴言であった。無言で部下を見ると、すべてが伝わったようで、その部下が護衛に命令する。ミヌトン公爵を殺すように・・


ミュラ七世の護衛には、ジアーノンの七本槍の、エシンとゾソガの二人がいた。一騎当千の猛者が二人もいるミュラ七世の護衛たちは、ミヌトンの私兵を圧倒するほどは強かった。あっという間にその場にいた100人ほどの兵を斬り殺して、ミヌトンを主の下へと引きずってきた。


「わ・・・悪かった・・許してくれ・・命だけは・・」

そう言って命乞いをするミヌトンを冷たく見下ろすと、手で首を切る仕草をして、部下に自分の意思を示した。それを見て、七本槍のエシンが、剣でミヌトンの首を飛ばして、主の意思に答えた。



ミュラ七世は、その後、王宮からの脱出を試みるが、完全に包囲されている王宮からの脱出は難しく、王宮の奥をウロウロとしていた。

「必ず秘密の抜け道があるはずだ! 早く探せ」


確かに、王族の暮らしていた王宮である、抜け道の一つや二つあっても不思議ではなかった。時間があれば十分探し当てることができたかもしれない。だが、それより先に、ジュスラン平定軍が、王宮奥までやってくる方が早かった。


ミュラ七世の前に現れたのは、ジュスラン配下の猛将、イェーガーであった。イェーガは200人の部下を引き連れて、ミュラ七世のいる部屋へと突入した。対するミュラ七世の護衛隊は300人と、数では上まっていた。


すぐに部屋の中では激しい乱戦が始まる。ミュラ七世の護衛隊は、決して弱くはなかったが、イェーガーの部隊が強すぎた。数では勝ってるはずの護衛隊であったが、いつの間にかその数でも劣勢になっていく。


特に巨大な戦斧を振り回すイェーガーは強かった。一振りで数人の敵を簡単に粉砕する威力で、振り回す速さも尋常ではなかった。かなりの達人のはずの、ジアーノンの七本槍の一人であるゾソガとの一騎打ちでは、一撃で、ゾソガを鉄の槍ごと真っ二つに切り裂いた。


周りの護衛が少なくなっていくにつれて、ミュラ七世の顔色も変わってくる。焦りと恐怖で体が震える。

「エシン! 大丈夫か、味方がどんどん減っているぞ」

そう声をかけられた護衛隊最強の男は、顔色を変えずにこう返事をする。

「この命にかえましても、お守りします」

エシンにも、大丈夫という答えはできなかった。



ミュラ七世の目の前に、味方の兵の首が転がってくる。恐怖でその場で固まってしまったミュラ七世に向けて、首を転がした張本人が歩み寄ってくる。


「我が名はイェーガー。ミュラ七世だな。その首貰い受けるぞ」

戦斧を構えて、歩みを進めるイェーガーと、震えるミュラ七世の間に、両手剣を構えるエシンが割って入る。

「悪いが、俺の目の黒いうちには、我が王は討たせぬぞ」

「ならば貴様の目を白くしてやろう」


そう言うと、イェーガーは、戦斧を振りかぶって、エシンに振り下ろした。それをエシンは両手剣で弾き返す。激しい火花が散って、二人とも少し後ろへ飛ばされる。


イェーガーはすぐに体勢を戻すと、二撃目の攻撃を繰り出す。エシンは次はその攻撃を受けずに、体を捻って避ける。そしてカウンターで、両手剣をイェーガーのこめかみに、叩き込もうとした。だが、イェーガーはその攻撃を読んでいた。頭を下げてその攻撃を下げると、戦斧を手から離し、エシンに体当たりする。激しいタックルで倒すと、そのまま馬乗りになって、腰の短剣を引き抜くと、それでエシンの心臓を貫いた。


もう、ミュラ七世を守るものはいなくなった。震える辺境大連合の盟主の頭上に、強力な戦斧の一撃が振り下ろされた。




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