第102話 辺境の統一

裕太が、食事をしていると、アントルンの平定に出撃しているジュスランからの報告が届いた。その内容に少し驚く。


「まさかジアーノンのミュラ七世を討ち取ったて・・」

裕太が染み染みとそう呟くと、食後に応接室に呼ばれたフィルナも感想を発言する。

「ジアーノンがアントルンに介入してくる可能性は考えたけど、まさか討取ることができるとはね」

さすがに、フィルナでも、ジアーノンの介入までは予測できても、その後の展開は予想できなかったようだ。そして、フィルナは話を続ける。

「でも、これで辺境の情勢が大きく変わると思うよ。もはや辺境でアースレインに対抗できる勢力はなくなったからね」

フィルナの言葉に、完全には状況を予測できていない裕太が質問する。

「てっことはどうなるの?」

「辺境統一。大陸制覇の第一歩が現実になる」


そのフィルナの言葉の通り、それから辺境大連合に加盟していた国々が次々と裕太の下へと訪れて我先にと従属を申し入れてきた。それは辺境大連合の終わりを悟った国々が、早めに従属することで、少しでも待遇の良い受け入れを狙ったものであった。そんな流れである、すべての国がアースレインに従属するのに、それほど時間は必要としなかった。


こうして、辺境は、アースレイン王国によって統一されたのだ。



辺境での戦争は終わり、北方への進出を考えて、内政と軍備の整備に力をいれる。リュジャナは、これまではバラバラだった経済圏を統一して、効率化すると、街道の整備、食料の生産、街を拡張するなど、辺境全体の経済を発展させた。


亜人と人間の経済交流も盛んになり、新しい時代を迎える。普通に人間の街に亜人が住み着き、それを人々は受け入れた。町の酒場にはケンタウルスや獣人が出入りして、リザードマンの魚屋で人が買い物をする。エルフの育てた果物が市場を賑わして、ドワーフの鍛冶屋が農具を修理してくれる。


軍も大きく再編されることになった。元々、各国で兵をしていた者のほとんどはそのままアースレイン軍に入った。新兵を募集すると、やはり条件の良いことから、多くの人や亜人が殺到してくる。それにより膨大に増強された兵力を、より効果的な編成へと変更された。


変更内容は、ジュスラン大師団、50,000。ブライル大師団、50,000。クリシュナ大師団、50,000。アズキ師団、25,000。アリューゼ師団、25,000。ルソ師団、25,000。ジュゼ師団、25,000。ブリトラ師団、25,000。アッシュ師団、25,000。ヴァルガザ師団、25,000。ランザック師団、25,000。ダグサス師団、12,000。ウェルダ師団、12,000。ファシー特務師団、10,000。ヒュレル特務師団、10,000。シュナイダー師団、10,000。エイメル近衛師団、30,000。と、総兵力は辺境統一前の戦力を大幅に上回る。


その他にも守備隊などの編成がされ、アースレイン軍は全体で50万を超える兵力となった。巨大な戦力のように見えるが、話を聞くと、北方の国々は、今のアースレインと同等の国力を持っているとの話である。



辺境を統一して、しばらくすると、珍しい人物から回線が開かれた。

「どうした、宇喜多。辺境統一のお祝いか」

俺がそう話を切り出すと、宇喜多歩華うきたあるかは淡々とした口調でこう話し始める。

「まあ、それもあるけど、別の話もあるのよ。飛田くん、あなた北方平和協定て知ってる?」

「なんだよそれ。そんなのあるのか」

「まず、北方の強国が、なぜ辺境へ侵攻しないか不思議に思ったことない?」

「そう言われれば、確かに、辺境を統一したアースレインと同等の国力があれば、簡単に侵略できたんじゃないかと思うな・・」

「それにはちゃんと理由があるのよ。それが北方平和協定よ。北方平和協定は、北方国家のすべての国が加入している平和協定で、その内容は、他国への完全なる先制攻撃の禁止。それを破った国は、加盟国すべてから制裁攻撃を受けるってものよ」

「なるほど・・それで辺境に攻撃してこなかったんだ」

「そう。その対象は非加盟国も含まれるから、北方の国から辺境に侵攻することはなかったのよ」

「それで、北方平和協定はわかったけど、それがどうしたの」

「どうしたのって、あなた、それを知らないで、北方に侵攻していたら大変なことになってたのよ」

「どっちみち、北方のすべての国家と戦う覚悟はあったからな・・」

「あのね、北方の国には私の国も含まれるのわかって言ってる? 例外なく、私の国、シルフィーダ王国も北方平和協定に加盟しているのよ」

「あ・・・そうか、ここからはクラスの連中とも戦うことがあり得るのか・・」

「私だけじゃなく、瑠花も北方よ。NPC国家だけならまだしも、私と瑠花の2カ国も含まれる、北方12カ国を相手に戦って勝てると思ったの?」

「確かに、そう言われればキツそうだな・・」


「そこで、相談なんだけど、同盟を組むつもりはない」

「同盟?」

「そう。私と瑠花と飛田くんで」

「だけど、俺はもう夢子や、義之、薫子と同盟を組んでるからな・・」

「あら、そうなの? それじゃ、その同盟に私たち二人を入れて頂戴」

「俺はいいけど、一応、他の三人にも聞いてみないと」

「それじゃ、すぐに聞いてみましょう」

そう言うと、宇喜多は、三人にコールを送る。すぐに返事が返ってきたみたいで、このチャットに招待された。

「どうした。宇喜多。俺たちに相談って」

義之がそう聞いてくる。

「あなたたちの同盟に、私と、瑠花を入れて欲しいの、飛田くんはいいって言ってくれたわ」

それを聞いた薫子は、嬉しそうにこう返事をする。

「私は賛成。そうだよね、歩華ちゃんと裕太くんが戦うことになったら嫌だもの、同盟に入ればそんな心配しなくていいものね」

「私も賛成だよ。味方は多い方がいいからね」

夢子も迷うことなく賛成する。夢子と薫子が賛成するのに、義之が反対するなんてことはやはり無かった。

「俺も賛成。反対する理由がない」


こうして、俺たちの同盟は、宇喜多と阿波が加わり、六人の同盟となった。これは、この間のクラス会で宣言した南方連合の五人を上回る人数である。南方連合と違って、国がバラバラな場所にあるので、なかなか連携が取れないのが難点ではあるが・・・


辺境の統一によって、アースレイン王国は大国と呼べるほどの国へと成長した。だけど、裕太はやっと他のクラスメイトと肩を並べることができたに過ぎない。苦労してやっとスタートラインに立つことができたという現実に、腹立たしさは残るが、それによって得た物も多いと感じていた。

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