第100話 王宮の戦い

ミヌトン公爵の軍は王宮に一万の兵で立て籠もり。ジアーノンのミュラ七世が率いる辺境大連合は、四万五千の兵を三に分けて、それぞれ王宮の東、中央、西に布陣していた。


ジュスラン平定軍は、ジュスラン本隊、アッシュ師団、ランザック師団の三軍でそれを包囲して、攻撃を開始する。


王宮の東を守る辺境大連合軍を率いるのは、ドゥラン帝国のシケド将軍。一万二千の兵を率いて、平定軍のアッシュ師団と交戦が始まる。


戦いが始まると、すぐに、シケド将軍は二千の騎兵を、敵軍の中央を突破させるように突入させた。鶴翼の陣で包囲殲滅の戦法を取っていたアッシュ師団の中央を、二千の騎兵は、網に中に入るように飛び込んでくる。


中央に布陣していた重装歩兵隊に、ドゥランの騎兵隊の突破が止められると、包囲する為に、広く布陣していたアッシュ師団の部隊が、中央で足止めされている敵騎兵隊を、囲んで全方位から攻撃を加えて殲滅していく。


包囲の中に先鋒隊を飛び込ますといった、先手としては最悪の愚策を放ったシケド将軍は、指揮経験の乏しい将軍であった。もはやこんな前線でも辺境大連合の人材不足が露呈していた。


さらに悪手は続く。アッシュ師団に包囲されるのを嫌がり、シケド将軍は、全軍をアッシュ師団より大きく広げた。確かに包囲はされなくなったが、兵の密度が落ちて、戦力が分散される。組織的な戦闘をできなくなったシケド将軍の軍は、各個に撃破されていき、気がつけばその兵の大半を失っていた。


無能な将軍の最後はあっけないものであった。本陣の兵が少なくなった隙をついて、アッシュ師団の遊撃隊に強襲され、名もない兵に、その槍で胸を突かれて絶命した。


王宮の西側に布陣していた辺境大連合の軍は、ロギマスの若い王子、ラルヌカに指揮されていた。ラルヌカはまだ齢十四になったばかりの若い将であったが、兄のビヘイカより、その才は上と周りからは評価されていた。


そんなロギマスの王子と戦うのはランザック師団であった。ランザックはすぐに軍を魚鱗の陣の陣形にすると、敵軍の中央に突撃する。それは敵の布陣を見て、中央に弱い箇所を見つけたので、そこ粉砕する策であった。


だが、その弱い箇所は、ラルヌカが意図的に作った罠であった。辺境大連合の軍は、ランザックの突撃を、二つの軍に分かれることで避け、突撃してきたランザック師団を挟み撃ちにして、攻撃する。

「落ち着いて確実に敵兵を討ち減らせ!」


ラルヌカは十四とは思えぬほどのはっきりした指示で軍を動かして、ランザック師団を追い詰める。


一方、挟み撃ちにされたランザックは、軍を方円陣形へと変化させて、全方位に防御を固める。さすがにこの辺りの軍の運用はうまく、被害を最小限に抑えた。


そこからは策の良し悪しではなく、軍の強さの差が大きく出始めた。ランザック師団の兵の個々の戦闘力は、辺境大連合の兵を大きく上回っていた。それは練度の差もあるのだが、従える主の力が影響していた。裕太の特殊能力である、パーフェクト・ワールドの効果は、遠く離れていても発揮するようで、明らかな戦闘力の増加が見られていた。


ラルヌカの軍は、徐々に兵を討ち減らされ、劣勢になっていく。さすがに個々の戦闘力の差はどうしようもなく、そんな状況でも、対応することができなかった。


その後、戦況は変化することなく、ラルヌカの軍は壊滅して、まだ若い未来の名将は、ランザックの副将である、エーガーダによって討たれた。



王宮の中央に布陣していた辺境大連合は、ジアーノンの王、ミュラ七世が指揮をとっていた。特に策もなく、ミュラ七世は全軍に突撃を命じる。ジュスランが率いる、平定軍の本隊は、その突撃を重装歩兵で受けると、両側面から騎兵隊を突撃させる。騎兵隊は横から、敵軍を分断するように割って入ると、敵の前衛を孤立させた。ジュスランはそのタイミングで、攻撃力の高い、第一連隊を前進させて、敵の前衛を粉砕する。


「何をしている、もっと敵を効率良く倒すんだ!」

ミュラ七世は指揮というより、願いを大声で部下に伝える。具体的に、どんな魔法を使えばこの劣勢の状況を打開できるか、兵たちにはわからなかった。


気がつけば、辺境大連合の軍でまともに戦っているのは、ミュラ七世の周りの本隊の兵だけになっていた。その数は三千ほどで、まさに風前の灯である。

「全軍、王宮の中へ一時的に撤退する!」

戦況を見て、どうすることもできなくなったミュラ七世は、王宮へ逃げ込んだ。王宮内にはミヌトン公爵の兵が一万いるので、まだ戦えると考えていたが、逃げ込んだ王宮には、高い城壁はなく、防衛するには不向きな施設であった。

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