第97話 女王即位

一行は、砦の三千の兵を率いて、アブラム城へと進軍を開始した。アブラム城には貴族連合派の兵がいるが、その数は二千とそれほど多くはない。


兵を城門前に待機させると、ファーとヒューに城の中への侵入と、開門を指示する。さすがに彼女たちは仕事が早い。10分ほどでアブラム城の門は開け放たれた。


すぐにシュナイダーに率いられた兵たちが城に突入する。彼らだけで、この城の制圧は容易に見えるが、アズキとヴァルガザは進んでそれを手伝う。


城の兵は、貴族の私兵が多く、金で雇われている破落戸ならずものや無理矢理徴兵された農民なので構成されていて、士気があまり良くない。それに比べてシュナイダーの率いる砦の兵は正規兵である。個々の能力の差も大きく、城の兵はまともな抵抗もできずに制圧されていく。


城を制圧して、その安全が確保されると、俺たちとイングヴェイに守られて、ミホシ王女は城内へと入った。そしてすぐに王家礼拝堂へと入り、そこでアンロルン女王への即位を宣言した。その後すぐに、アースレインへの従属も宣言して、アントルン王家の長い歴史に終わりを告げる。


すぐにその内容は、女王の正式な署名の添えられた正式文書で、アブラム城からアントルン全域に伝えられた。


「エイメル様。これからどういたしましょうか」

イングヴェイの問いに、答える。

「そうだな。まず、ミホシはここにいては危険なので、俺と一緒にジュレンゼ城へと向かう。イングヴェイも一緒に行くとして、問題はシュナイダーとその軍だな」

「我々はこの城を守ろうかと思います」

シュナイダーはそう言ってきた。

「おい。それは危険だぞ。もし貴族連合が女王の宣言を無視して攻撃してきたら・・」

友人であるイングヴェイが、友を心配してそう言う。

「たぶん攻撃してくるでしょう。だが、女王の言葉に耳を傾け、アースレインへの従属を受け入れる貴族もいるはずです。その者たちと協力して守り切ります」


「わかった。ではシュナイダー。お前をアースレインの将軍に任命して、アントルン領防衛師団の師団長に任命する。これはアースレイン王の勅命だ」


裕太はそう話すと、同行していたリリスにこうお願いした。

「リリス。すまないがここに残ってこの城の防衛に協力してくれるか」

リリスは妖しく微笑むと、こう返答した。

「そうじゃな。ここの兵はひ弱い。私くらいがいなければ簡単に落ちてしまうじゃろう。エイメルの頼みだし、残って守ってやろう」

「ありがとう、リリス」


「シュナイダー。ジュレンゼ城に戻ったら、すぐにアントルンの平定軍を編成してこっちに送る。それまで頑張ってくれ」

「はい。命に代えても城は守ってみせます」


話が終わると、俺はミホシを連れてすぐにジュレンゼ城へと向かった。ジュレンゼ城までの道中では特に何事もなく、各、国々の国境も問題なく通過した。アントルンでの騒動が影響してるか心配したが、他の辺境大連合の国々も、先の敗戦の影響で不安定になっているようである。


戻ってすぐにフィルナと、三人の大将軍を集めた。アントルンへの平定軍の相談をする為である。

「また、そんな面倒な話になって・・アントルンに平定軍を送るとしても、その道中の国はどうするつもりだよ」

フィルナの問いはもっともである。アントルンまで兵を送るには、辺境大連合の国を二つは通らなければいけない。

「なので相談したい。どうにかならないかな」

その俺の問いに、ブライルが単純な方法を提示してきた。

「途中の国も制圧していけばどうですか。今、辺境大連合はかなり弱体してます。ある程度の兵力で国に進行すれば、戦わずに屈服する可能性もあると思います」

「それだ! それでいこう!」

俺がそう言うと、フィルナが呆れたように話を進める。

「それしかないか・・本当はもっと準備して、確実に落としていくつもりだったけど、こうなってはその手でいくしかないね。それじゃ、平定軍の編成の話をしようか」


そんな話になったので、平定軍は、アントルンまでの道のりとなる二国も制圧することになった。その為に、軍の規模をある程度大きくする必要がある。


話し合いで決まった編成はこうである。大将軍のジュスランを総大将として、アッシュ師団、15,000。ランザック師団、15,000。ルソ師団、12,000。ジュゼ師団、12,000。ジュスラン本隊、20,000。総兵力、74,000。なるべく戦闘がないようにと大兵力を編成した。この規模であれば、賢明な者なら、戦いより降伏を選択してくれるだろう。



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