第98話 平定軍
ジュスラン平定軍と銘打たれた大軍は、すぐに最初の国、ラルタ王国へと侵攻した。圧倒的な大軍で、国境近くの要塞を陥落させると、すぐにラルタ王へと降伏を促す使者を送る。
「もはやこれまでだ・・すぐに無条件で降伏すると、司令官に伝えてくれ」
ラルタ王の判断は早かった。すでに、先の戦いで甚大な被害が出ており、国内の兵は残り僅かであった。このまま戦うことも、他の辺境大連合に援軍を期待するのも難しいと考えて、それ以外の答えはなかった。
無条件の降伏であったが、アースレインの対応は寛大であった。ラルタ王には、ある程度の財産を持っての国外退去。貴族も同様の処置であったが、希望者はアースレインへの雇用を許可した。また、軍は全て解散であるが、希望者する者は末端の兵であってもアースレイン軍への雇用を受け入れた。
ラルタには、ルソ師団が国内平定の為に残ることになった。それには、どこかの軍にラルタが制圧されて、ジュスラン平定軍が孤立するのを防ぐ意味もあった。
その後、すぐに二国目のアドチア王国へ侵攻する。ジュスラン平定軍が国内に入ると、アドチア王はすぐに降伏を申し入れてきた。ラルタでの寛大な処置が、アドチア王の選択を早めたようである。
ジュスラン平定軍が侵攻している頃、俺は娘に家庭教師を紹介していた。
「リエナ。こちらが魔法の先生のオーウェンだ。挨拶して」
リエナは嬉しそうな笑顔で挨拶した。
「リエナです。オーウェン先生・・宜しくお願いします」
「ほっほっ。良い子じゃ、ビシビシ教えてやるぞ」
「それともう一人紹介したいんだけど」
裕太はそう言うと、リエナと同じ歳くらの少女を前に出した。
「ミホシだよ。仲良くしてやってくれ」
少女は少し照れながら、挨拶をする。
「ミホシです・・宜しく・・お願いします」
「リエナです。宜しく、ミホシ」
同じくらいの年齢で、リエナの友達に丁度良いと考えた裕太は、ミホシもオーウェンに魔法を学ばせることにしたのだ。二人とも仲良くなってくれるといいけど。
そんな心配も無用のようで、二人は長くからの親友のように仲良く話し始めた。おそらく二人とも高貴な育ちなので、気の許せる同じくらいの歳の友達なんて今までいなかったのだろう。すごく楽しそうに話をしている。
「イングヴェイ。お前にはミホシとリエナの護衛騎士長に任命する。どんなことがあっても二人を守ってくれ」
「はっ! この命を捨てようとも、必ずお守りします」
元青竜騎士団のイングヴェイの部下も、そのまま護衛騎士に任じて、二人の警護を命じた。優秀な者たちなので、これで二人の安全の心配はないだろ。
平原を無数の兵馬が突き進む。その軍には幾つもの家紋の旗がなびいている。国の旗でないことから、それが国家の軍ではないことを意味していた。
「シュナイダー将軍。貴族連合の軍が、攻めてまいりました」
やはりというべきか、ミホシの宣言など無視して、貴族連合が攻め入ってきた。その兵力は二万。まともに戦えば三千で守るこの城など、ひとたまりもないだろう。
しかし、今、この城には敵からすれば、悪夢かと思うほどの存在が滞在していた。
「リリス殿は強力な魔法を使うと聞いております。この距離からもあそこへ攻撃することは可能ですか」
シュナイダーが差したのは、丘の上の敵の本陣であった。城の城壁から五百メートルはある距離を見て、リリスは答える。
「そうじゃな、あれぐらいの距離なら、攻撃できる魔法も持っておるから大丈夫じゃぞ」
「いくら大軍であっても、本陣を叩かれれば敵も怯むでしょう。お願いできますか」
「私はエイメルからここを守るように言われておる。頼まれんでもやろうぞ」
そう言ってリリスは、片手を上に上げ、人には理解できない言葉を発する。そして、その魔法を発動した。
それは雷撃の魔法であった。無数の雷が、敵の本陣めがけて落ちてくる。一つの稲光りで数十人が丸焦げになる。それが無数に飛来した。敵本陣は死の恐怖で混乱に陥った。
ただでさえ烏合の衆である。集団の集まりにすぎない軍は、その混乱で、それぞれバラバラの行動をし始めた。ある貴族の私兵は逃げ始め、また、別の貴族の私兵は僅かな兵で城へ攻撃を始める。そこにはまさに指揮も何もなく、ただ兵を打ち減らしていくだけであった。1時間もしないうちに、貴族連合は完全に崩壊して、軍としてその姿を消した。
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