第96話 砦の謀反

それほど大きくない砦の中で、ミホシと俺たちは、砦の司令官と対面した。

「これはこれはミホシ王女、ご無事で何よりです。私はこの砦を任されております、将軍のグベと申します」


そう挨拶されたが、ミホシはさしたる興味を示さない。軽く頷くだけの反応で答えた。グベ将軍はそれを引きつった笑顔で受ける。

「グベ将軍。ここにシュナイダーが着任していると聞いていますがどこにいますか」

「なんだお前は」

「私は、青竜騎士団のイングヴェイです」

「ほほう。お前があの双頭竜の・・・」

「それでシュナイダーは・・」

「あやつならもう直ぐここに来る」


確かにシュナイダーは現れた・・完全武装の百人ほどの部下を引き連れて・・・ここに来る前に、グベ将軍はシュナイダーに兵を連れてここに来るように命令していた。それはミホシ王女を拘束する為である。貴族連合に取り入るにはこれ以上ない手土産に、グベは悪い心が動いてしまった。


シュナイダーの兵に取り囲まれて、イングヴェイがシュナイダーに話しかける。

「おい・・シュナイダー。どういうつもりだ」

「イングヴェイ。悪いが武器を捨てて投降してくれ。命までは奪わん」

「俺がミホシ王女を裏切るような行動を取ると思うかシュナイダー。貴様こそ、今すぐに兵を下げて、改めてミホシ王女に忠誠を誓え!」


「・・・くっ・・」

シュナイダーの苦悩の表情を見て、裕太はミホシ王女に何やら助言をする。それを聞いたミホシ王女が、大きな声でこう発言した。

「シュナイダー! アントルン王国、ミホシ王女が命ずる。今すぐ兵を引いて、私の前に跪くのだ!」


王家の者の声掛けに、忠義のあるシュナイダーの心は動かされる。すぐに部下に武器を下げるように命じた。


「シュナイダー! 何をしておる。すぐにミホシ王女を拘束しろ。他の者は斬り捨てろ!」


「悪いですがグベ将軍。私はアントルン王国の臣下です。王国の敵であるあなたの命令には従えません」


「貴様、裏切るきか!」

「いえ、裏切ったのはあなたです」


シュナイダーはすぐに部下にミホシ王女を守るように指示を出す。その場にいるのはシュナイダーの部下が大半であるが、砦の兵のほとんどは、グベ将軍の部下である。将軍がミホシ王女を拘束するように命令すれば、砦の兵のほとんどが敵になるであろう。


「ええい! かまん! シュナイダーも一緒に斬り伏せろ!」

その命令に動き出した兵たちを、アズキ、クリシュナ、ヴァルガザの三人が、派手に斬り伏せる。そのあまりの強さに、他の兵の動きが止まる。


俺は悪の権化のグベ将軍に静かに近づき、真っ二つに斬り裂いた。


その出来事に、兵たちは驚きと戸惑いでその場で停止した。そしてミホシ王女から声をかけられた。

「グベ将軍の謀反は、将軍の死で終了した。他の者には罪は問わぬ。この砦のすべての兵は、シュナイダーの指揮下に入れ」


そう言うと、そこにいた全ての兵が地にひれ伏した。



シュナイダーは改めてミホシ王女の前に跪く。

「ミホシ王女。ご無礼をお赦し下さい」

「よい。それより、これからすぐにアブラム城を占領しますので、兵の出撃準備をしてください」

「アブラム城・・どうしてあそこを・・」

「あそこには王家礼拝堂があります」

「それはまさか・・」

「そうです。私はアントルンの女王になります」

「そ・・それは喜ばしいことで・・」

「だけど、すぐにアントルンはアースレインに従属します」

「なんと・・それはどうして・・」

その疑問にはイングヴェイが答えた。

「正確にはすでにアントルンはアースレインに従属を誓っている」

「それはどういう意味だイングヴェイ」

「まあ、俺もすでにアースレインの騎士だ。そういう意味だよシュナイダー」

そこでシュナイダーは、周りに、アントルンの人間ではない者が何人かいることに気がついた。

「シュナイダー。この者たちは・・」

「その方こそ、今の俺とミホシ王女の主。アースレイン王だ」


それでシュナイダーは詳細な話をここで聞く。もし、アースレイン王に助けてもらわなければ、すでにアントルン王家は滅んでいた。そう考えればその選択も仕方ないのかもしれない。

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