第95話 二刀流の騎士
イングヴェイは自分の力が、大幅に上昇していることを実感していた。それはなぜかはわからない。だけどアースレインの騎士となったことで、強くなったと感じていた。
イングヴェイは騎士には珍しい二刀流の使い手であった。右手には霧影と呼ばれる刀を持ち。左手には春風の名を持つ小太刀を持っていた。イングヴェイは踊るような剣筋で、次々に敵を斬り倒していく。右手の刀で敵を斬り裂き、左手の小太刀で敵の腹を抉る。
イングヴェイは、自分の力を最強とまではいかなくても、辺境屈指の実力はあると思っていた、だが、その自信も、アースレイン王の家臣たちの戦いを見て揺らぐ。
なんだあの者たちの強さは・・大男の攻撃で、鎧を着た兵士がゴミのように宙に舞う。女戦士の攻撃はその剣撃のあまりの速さに見えもしない。彼女の近くに敵が近づくと、魔法のようにバラバラになって吹き飛ぶ。あの長身の亜人に至っては、まさに魔神のような強さ・・剣圧だけで敵が消し飛ぶ。
まさかこの人数で、敵の大軍と戦うとは思っていなかったが、このまま敵を全滅できる勢いであった。
さらに先ほどから森の奥で騒がしい音が聞こえる。時折大きな音が爆発が起こり、怒声と罵声が飛び交う。
ファシーとヒュレルの二人は、敵の後方にて、破壊と混乱を撒き散らしていた。もはや敵は何と戦っているのかもわからず、その軍としての機能を破壊されていた。
リリスは森を燃やさないように、敵の集まりを魔法で攻撃していた。得意な炎の魔法を使えば、すぐに肩がつきそうであったが、さすがに我が主がいる森に火がついては大変である。
「何事だ!」
貴族連合の将軍が、異変に気付いて部下にそう問いただす。
「わかりません。全軍が混乱しており、何が起こっているか・・ただ、我が軍が危機的状況なのは間違いありません」
「くっ・・一度軍を引かせるんだ。このままではどうすることもできん」
「しかし、ミホシ王女は良いのですか」
「良いわけないだろうが! 一度引いてから仕切り直しだ」
騎士連合は、すべての軍を森の外の丘に集結させていた。しかし、その判断は致命的なミスであった。敵軍が森の外に集結しているのを空から見たリリスが、その軍に特大の火炎魔法を放つ。密集して集結していたのが災いして、ほんとんどの兵がその炎に飲まれる。
森から出て、イングヴェイはその惨状を目の当たりにする。あれだけの軍が全滅している・・あのリリスとかいう女は何者なのだ・・疑問と未知の存在への恐怖が、彼の心に渦巻く。
「イングヴェイ。聞くけど、アントルンに、ミホシの味方になりそうな人間はいるかな、または君が個人的に信頼できる人間とかいれば教えて欲しい」
「それならば、一人心当たりがあります・・いえ、一人しか心当たりが無いと言うのが正しいでしょうか・・」
「それは誰だ」
「シュナイダーという私の友人です。下級貴族の出身ですが、優秀な男で、今は軍の大隊長をしています」
「そうか、なら、少しくらいの兵は動かせるよな」
「自分の大隊くらいは動かせると思いますが・・」
「よし、ではその男に会いに行こう」
「どうするのですか」
「ミホシをアントルンの女王にするんだよ。そして正式にアントルンをアースレインに従属してもらう」
「なるほど・・ですが敵は数万の大軍です、シュナイダーが味方になったからといって、王宮を奪還するのは厳しいかと・・」
そう発言して、先ほどの戦いを思い出し、そんな心配は無用のような気がしてきた。
「王宮を奪還する必要もないと思う。要はミホシの女王即位を宣言できればいいだけだから。どこか、大きな町か城を占拠できればいいんだ。そこで女王即位とースレインへの従属を宣言すれば、ここはもうアースレイン領になる」
確かに、そうなれば反乱軍は選択を迫られることになる。アースレインと戦うか否かを・・
シュナイダーは、ミチルカの西にある砦に駐屯しているようであった。そこまではここから1日もあれば行けそうである。俺たちは早速そこへ向かった。
「グベ将軍! アントルン王家を守るのが我らの使命ではないのですか、どうして砦の軍を動かして、反乱軍と戦わないのですか」
「シュナイダー。この砦の兵は三千ほどだ、それを率いて戦ったところで、貴族連合の二万の軍に、勝てるわけがないだろ。わしは勝てない勝負はしない主義なのだ」
「それでは他の砦や、城の兵と連絡をして・・・」
「それにだ、もう王宮は陥落していると情報が入ってる。すでにアントルン王家は皆殺しになってると考えるのが普通だろ」
「では・・将軍は反乱軍に味方すると・・」
「そうではない。今は状況を見て、勝った方に味方するんだ」
こいつ・・卑劣な奴とは思っていたが、我が主が危機的状況なのに、自分の身のことしか考えてないのか・・
そんな時、慌てた兵が司令室に飛び込んできた。その内容は、ミホシ王女がこの砦にやってきたというものであった。
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