第91話 大賢者

ジュルディアが正式にアースレインに従属して、希望者のみだが、その家臣が俺の前に参上した。アースレインに従属する希望者は、9割ほどで、残りの者は財産を持ってどこかへ行ってしまった。


だけど、優秀な家臣はほとんど残ってくれたので、人材としては問題なように思える。軍師ブライル、五宝将の四人がアースレインに加入してくれたのはかなり大きい。


「ルマデン伯爵、あなたの政治手腕はなかなかのものだと聞いています。旧ジュルディア領の内政の管理は、あなたにお任せします」

ルマデンは、新しき王にそう言われて素直に嬉しかった。気持ち良くそれを了承する。

「はっ、全力でお受けします」


「軍師ブライル。君には、新しい職を与える」

「はい。アースレインには私より優秀な軍師がすでにいますので、当然のことだと思います」

「ブライル。今日から大将軍の職に就き、アースレインの為に働くがよい」

「私が大将軍ですか、そんな大役を・・」

「能力的に当然の選択だと思うが、不服かな」

「いえ、謹んでお受けします」


この後の人事で、アースレインには三人の大将軍が誕生していた。一人はブライル。もう一人はグルガナの大将軍だったジュスラン。そして新たにクリシュナを大将軍へと昇格させた。さらに、アズキ、アリューゼ、ルソ、ジュゼを上位将軍に任命して、ジュルディアの五宝将と同列とした。


その後も、先の戦いで活躍した部隊長などを将軍に格上げして、その武勲に報いる。ガゼン兄弟やファシーとヒュレルも将軍になった。


また、流石に手狭になってきたこともあり、主城を旧ジュルディアの主城へと移すことになった。初めて見た時はその巨大な城に圧倒される。そしてアースレインの主城となったことで、城の名を変えることにした。新しい城の名は、ジュルディアの最後の皇帝から名を取り、ジュレンゼ城と名付ける。


引越しのバタバタも終わり、執務室で落ち着いていると、リュジャナが小言を言いに俺のところへやってきた。

「エイメル。さすがにジュルディア領は広すぎて、経済網を整備するのは大変よ」

「まあ、ルマデン伯爵に相談して、うまくやってよ」

「簡単に言うわね。ちょっと国を大きくするペースが早すぎるのよ、それどころか結婚もしていないのに子供なんて作って・・あなた、何考えてるのよ」

リュジャナの本命の話はそこにあった。裕太が、結婚についてどう考えているか探りに来たのである。

「まあ、成り行きだから・・それにリエナは可愛いから子供にしてよかったと思ってるよ」

「そこじゃありません。結婚についてどう考えてるか聞いてるのです」

「何も考えてないけど」

馬鹿正直にそう答えると、リュジャナは怒って部屋を出て行った。俺はその行動に意味がわからず呆然とそれを見送る。


そういえば、リエナの魔法の先生を見つけないといけないな・・リュジャナとの話で、娘との約束を思い出す。すぐに家臣に相談しようと、詳しそうな者を呼んだ。


「どうかな、最高の魔法使いを探したいんだけど」

相談に呼んだのは、クリシュナ、フィルナ、ブライル、ジュスランなどうちの最高の頭脳たちであった。


「最高の魔法使い・・その条件ですと大賢者オーウェンでしょうか・・」

ブライルがそう答えた。それに他の三人も同意する。全員が同じ人物を指名するということは間違い無いだろう。

「それじゃ、その大賢者オーウェンにリエナの魔法の先生をお願いしよう」

そう俺が言うと、フィルナがこう話し始める。

「だけど、大賢者オーウェンはかなりの変わり者だと聞くよ、魔法の先生なんて受けてくれるかな」

「どこの国にも属さず、我が魔法道の探求に邁進する。そんな人物ですからね、おそらく聞く耳も持ってくれないでしょう」

ジュスランもそう言って、この話が難しいことを示す。


だが、クリシュナはこう助言してくる。

「エイメルが直接行って話せば、もしかしたら話しを聞いてくれるかもしれないぞ」

そのクリシュナの話に俺は即決する。

「それじゃ、ちょっとお願いしてくるよ。それでその大賢者はどこに住んでるのかな」

それにはフィルナが答えてくれた。

「本気かい、エイメル。大賢者オーウェンが住んでいるのは辺境の奥地、グラマザ山ってとこで、結構遠いよ」

「問題ない。リエナに最高の先生を用意するって約束したからね、どこだって俺は行くよ」


辺境最大の国の王が、娘の家庭教師をお願いする為に、辺境の奥地に行くなんて前代未聞であろう。当のその王様はあっけらかんとしていたが、周りの家臣は慌ただしく動く。

「とりあえず同行する者を選別するぞ」

「あまりゾロゾロ兵隊連れて行ったら大賢者オーウェンが嫌がるから少数精鋭だな」

「大将軍の誰か一人は同行した方がいいね」

「俺が行こう」

クリシュナが同行を申し入れる。護衛としても申し分ないのでそれで決定した。他にも護衛でアズキ、ファシー、ヒュレル、そしてヴァルガザと同行者が決まった。



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