第77話 攻勢へ

リリスの火球の一撃が、辺境大連合の一団の中心に直撃する。吹き荒れる炎の嵐に、多くの兵が消し炭となる。リリスが援軍としてきてからは、もはや戦闘と呼べる戦いではなかった。まさに大量虐殺・・


アントルンのシミナ王は、この戦場での勝機が完全にないことに気がついていた。すでに自軍の保守に動いていて、まだ諦めずに戦うドゥランの援護もせずにいた。

「ドゥラン軍が、アースレインの一斉攻撃を受けています。シミナ王。どうしますか」

「助けに行きたいが、もう、間に合わないだろう。我が軍は、撤退の準備をしてくれ」


現実的な判断ではあった。ここでドゥランを助けに行っても、犠牲が増えるだけで、何も助けられないことを知っていた。



「アントルン軍は撤退していきますね」

副官の言葉に、ジュゼは無言で頷く。


ドゥラン軍のビカンテ将軍は、高齢の老将であった。真っ直ぐな性格で、まさに武人といった人柄であった。そんなビカンテ将軍は、この劣勢の状況においても戦意を失うことはなく、必死に戦いをしていた。

「ビカンテ将軍、もう我が軍は一万も残っておりません・・このままでは全滅してしまいます、どうか撤退のご決断を」

「馬鹿者! 武人が戦果を上げずに逃げるなど言語道断、戦うことが我の使命だ!」


もはや部下の意見など聞く耳持たずで、ここを死に場所とでも考えているのか、決意の目をしていた。


ジュゼは要塞から出撃して、ドゥラン軍にとどめを刺すべく動き出していた。率いるはジュゼ師団の主力戦力である鉄騎兵団、3,000。破壊力と防御力を備えた強力な部隊であった。


リリスの攻撃と、城壁からの魔法や矢の攻撃で、ボロボロにされたドゥラン軍であったが、まだ10,000近い兵力が残っている、そこへジュゼの鉄騎兵団が突撃してきた。

鋼鉄の鎧に身を包んだ馬たちは、重装備の騎士を乗せおり、騎馬の特色であるその機動力が失われていた。だが、それを埋めるに足りる破壊力を備えている。鉄騎兵団の突撃は、歩兵を石ころのように弾きとばし、踏み潰し、粉砕する。


敵陣形の奥深くまで侵入したジュゼは、立派な鎧に身を包み、奮戦する老将軍を見つけた。おそらくそれがこの軍の大将だと判断したジュゼは、一騎打ちを挑む。

「我はアースレインのジュゼ・ルムシア、お手合わせ願いたい!」

それを聞いたドゥランの老将は微笑む。そして名乗りを返す。

「我はドゥランのビカンテ・ズロス・・望むところだ、この老体を、斬れるものなら斬ってみろ!」


ビカンテもかなりの武将であったが、ジュゼの戦闘力はそれを大きく上回っていた。ジュゼの最初の一撃を剣で受け止めたビカンテは、その威力に膝をつく。二撃目で剣を弾かれ、三撃目で首を落とされた。


大将を討たれたドゥラン軍は、統制を失い、その場から散り散りに逃げ始めた。


「追撃しますか」

鉄騎兵団の兵団長であるルイセスがそう聞いてくる。

「いや、その必要はない。我らの任務は、この地の防衛であり、敵の殲滅ではない」

そう言うと、要塞へ戻るように命令した。



ミュジ軍と同士討ちさせられたロギマスのフルーブル王は、残兵を集めて、撤退の準備をしていた。

「父上! 撤退する気ですか!」

ロギマスのビヘイカ王子がそう強く言うと、フルーブル王は疲れた顔でこう返す。

「この戦力ではあの城は落とせんだろ・・一度帰って態勢を整える必要がある」

「まだ、残兵を集めれば1万はいます。戦える数ではないですか」

「その半分は負傷兵だ・・」

「ぐ・・・」

ビヘイカ王子も、さすがに言葉を失う。確かにロギマス軍は満身創痍で、このまま戦える状況ではなかった。



「辺境大連合軍が撤退していくようです。追撃はしますか?」

裕太とフィルナの下に、そう報告がやってきた。

「いや、狭い渓谷で追撃したら、下手な反撃を受ける恐れがある。そのまま逃がしてやるんだ」

フィルナの判断に、裕太も同意する。


ここで無理にロギマスを討っても戦いは終わらない。それより、この先にある決戦に向けて、準備をするのが正しい選択だと思われた。


「他の戦場はどうなってるかな」

自分の担当の戦場が一息ついて、裕太も安心したのか、他の戦場の様子が気になり始めた。

「皆、優秀な指揮官ばかりだから心配はないと思うよ」

フィルナの言葉に、裕太も頷く。

「それでフィルナ。これから俺はどうしたらいいかな、他の援軍に行った方がいいんだろうか」

「今、各、戦場の情報を集めてるから、少し待ってくれ。予定通りだと、他の戦場でも勝利して、すべての敵が撤退したら、多分、どこかで辺境大連合とジュルディアは合流すると思う。そして最後の攻勢に出るんじゃないかと考えてるんだけど」

「そのまま逃げるってことはないかな」

「そうはならないだろう。彼らにも面子があるから、すべての戦場で敗北すれば、必ず一矢報いようと思うはずだ」


フィルナは、すべての戦場での勝利を疑ってない。裕太も皆を信じてはいるけど、心のどこかでは心配もしていた。


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