第76話 愚かな王の最後
フボー国のタータリ王は、全軍に集合をかけていた。要塞に対して一斉攻撃をかける為であった。
「あの、正面のとこを集中して攻撃するんだ。多少の犠牲を出しても構わん。とにかく気合を入れて攻めんとダメだぞ」
ここに来ての精神論での要塞攻略に、将軍たちは難色を示す。だが、総大将である、王に対して、文句を言えるものは誰もいなかった。
ジュルディアの友好国で結成された連合軍は、陣形とは程遠い、兵の塊となって要塞へと殺到した。
さすがに数が多いので、威圧感はあるが、何の策もなく突撃する敵から要塞を守るのは容易であった。ルソは的確に迎撃の指揮を出して効率よく敵を倒していく。
無謀な要塞攻撃も、三日がすぎて、連合軍の総兵数が半数ほどになったところで、無策な王も、さすがにこれではダメかもしれないと気がついた。
「誰か何か良い案はないのか! このままでは要塞攻略どころか全滅してしまう」
ここに来て初めて他人に意見を求めた。だが、この時にはイエスマンとかしてた家臣たちに、この状況を打開する案など出るわけもなく、唯一出た意見は、撤退してはどうかと、今、一番の良策であった。
「撤退だと・・お前は馬鹿か! わしに恥をかけというのか! 敵を倒す方法を考えろと言ってるんだ、逃げることなど考えるな!」
勝手な言い分も、王が言えば正論となる。そこでなんとか絞り出した策は、夜襲をかけるというものであった。
「夜ならば、敵の大半が寝ていよう。容易に要塞を攻略できるはずだ」
また安易な考えであるが、優秀ではない将でも、夜襲の備えぐらいはしているものだが、この王にはその発想がなかった。夜はゆっくり寝るのもだと、その考えに揺るぎはなかった。もちろん、タータリ王は夜襲の指揮などとるわけもなく、豪華で大きなテントに、城から持ってきたベットで、ゆっくりと就寝する。
夜襲の指揮をとるのは、ナポールという将軍で、実戦経験も無い貴族のボンボンであった。フボーの有力貴族である彼は、婚約者にいいカッコがしたい為に、この戦いに参戦していた。
「全軍、命を惜しまず、要塞に突撃せよ!」
昼が夜に変わっただけで、やることは全く一緒であった。ひたすら城壁を登って、要塞の中へ入ろうとするだけであった。もちろん、夜襲に備えのあるルソ将軍は、何の問題もなくそれに対応する。
そんな夜襲の様子を、山の砦から見ていたウェルダはあることに気がつく。
「おい・・夜襲中に、敵の大将、寝てんじゃねえか」
敵の陣営を見ると、野営のテントがいくつか撤収もされずに残っている。しかもほのかな明かりも見えて、人の気配がする。テントが豪華なことから、上の身分の人間がることが予想できた。
「まさか・・大将が寝てるってことはないでしょ・・」
ウェルダの副官は、そう言うが、大将でなくても、身分の高い人間があそこにいる可能性は高い。幸い、敵軍は要塞の攻撃に忙しく、山の砦には見向きもしていない。こっそりと出撃して、あそこを攻撃するのはそれほど難しいことではないように思えた。
「よし! 突撃大隊、出撃するぞ!」
砦の門をゆっくり開けて、ウェルダの率いる突撃大隊は、気配を消して、敵の陣営へと向かった。
王のテントを守るのは、300人ほどの兵であった。まさかそこに敵が来るとは思っていない見張りの兵たちは、気を抜いてダラダラと警備をしていた。そこに、暗がりから突如、声が上がる。何事かと思った瞬間、見張りの兵は、ウェルダ率いる突撃大隊に強襲されていた。
油断していたのもあるが、十倍の兵に強襲されて、王を守る兵はほとんど反撃できずに掃討される。さすがに、そんな外の騒がしさに、タータリ王も起きてしまう。
「何事じゃ、わしの眠りを妨げるなどあってはならんぞ!」
王が、怒りながらテントの外に出ると、そこには無数の敵兵が待ち構えていた。
「な! なんじゃお前ら! わしはフボーの国王じゃぞ!」
それを聞いたウェルダが、王に話しかける。
「何、それは本当か、フボーの王とはこの連合軍の総大将だろ」
「その通りだ!」
タータリ王が何も考えずにそう返事をした瞬間、彼の首は宙を舞っていた。驚きとも悲しみとも取れる表情で、王の首は地面を転がる。
「敵将の首、取ったぞ!」
ウェルダがそう叫ぶと、突撃大隊の兵が歓声をあげる。
要塞を攻撃していた連合軍にも、その情報がもたらされる。
「何・・タータリ王が討たれただと・・ぬぬ・・・仕方ない、撤退だ。撤退するぞ」
総大将が討たれては戦いは続けられない。要塞を攻撃していた連合軍は全軍撤退していく。連合軍の兵はこの時、最初の兵数から4分の1にまで減少していた。それは完全な大敗を意味している。
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