第75話 無双・赤い戦女

ジュルディア方面の南、戦況はアースレインに有利に見えた。ジュルディアはアッシュ師団とランザック師団の二つの師団で攻撃をしてきたが、アズキ師団と、汎用大隊により、完全に攻撃を防がれている。


砦の一つが、城壁に楔が打ち込まれて、落ちそうになっているが、なんとか踏ん張っているようである。他の砦は危なげなく守りを固め、要塞も堅固な守りで落ちそうにはなかった。だが、要塞を責めるアッシュ師団の陣に、五つの巨大な塔が現れてから、雲行きが怪しくなってくる。


「なんだ、あのでっかいの」

巨大な塔を見て、アズキが間の抜けた反応をする。そんな上司の反応に、真面目な副官はちゃんと答えてくれた。

「攻城兵器のようですね・・前に文献で見た攻城塔と呼ばれるものに似ています」


巨大な塔は、下に大きな歯車が付いており、移動できるようになっていた。ゆっくりとしたスピードではあるが、少しずつ要塞へと近づいている。


「おい、ルサス! なんかあの塔、近づいてないか?」

アズキが、塔が要塞に近づいているのに気がついて、ルサスに聞いた。

「そういう兵器ですよ。あの塔の内部は、下から上へと登れる階段があって、それを使って城壁の上に、直接兵を送り込むんです」

「それじゃ、近付けちゃまずくないか」

「まずいですよ。だから火矢とかで攻撃した方がいいかもしれません」

「なんで、そんなに冷静なんだよ。そう思うんだったらすぐに火矢の準備とかさせた方がいいんじゃないか」

「いや・・あの塔が近づいて、ここに兵が送られてくれば乱戦になりますよ。アズキ将軍の性格からすると、そっちの方が好きかと思いまして」

「乱戦か・・確かにそっちの方がいいかな・・」

ちょっとした冗談で言った助言を真に受ける上司に、ルサスもさすがに焦る。

「冗談です。すぐに火矢を準備させましょう」

「なんでえ、冗談かよ・・やばい・・本気で乱戦したくなってきた・・」

「・・・・早急に、火矢を用意してくれ・・」

ルサスは部下に、真顔でそう指示をする。


一列に並んだ弓兵が、火の付いた矢を一斉に放つ。しかし、火矢は攻城塔に命中するが、表面を鉄板で覆われている為に、すべての火矢が跳ね返される。

「おっ効いてねえぞ」

アズキはなぜか嬉しそうにそう言う。


近づいてくる攻城塔を見ながら、アズキは鼻歌を歌いながら嬉しそうに愛用の両手剣を磨き始める。それを見てルサスが頭を抱えた。


その後も、魔法攻撃などで攻城塔を破壊しようとするが、遠距離攻撃の対策がとられているようで、強大な塔はビクともしない。そのまま止める術もなく、攻城塔は要塞の城壁につけられた。塔の上部がスライドして、攻城塔と城塞の城壁に橋が架けられる。すると塔から飛び出したジュルディア兵が、城壁へと次々と渡り始める。


五つの攻城塔から、ジュルディア兵が溢れるように現れる。それをアースレイン兵たちは必死で倒していく。だが、時間が経つほどに、城壁上のジュルディア兵は増加していった。


「塔を一個つず潰していくぞ!」

アズキがそう叫んで走り出すと、側近の精鋭30名ほどがそれに続く。


アズキの一振りで、ジュルディア兵5人が吹き飛ぶ。三度ほど剣を振り回して敵を片付けると、大きく跳躍して、攻城塔に飛び移ると、その上にいたジュルディア兵を一掃する。アズキに遅れて側近も駆けつけるが、その時には塔の上は綺麗に片付けられていた。


アズキは側近たちを引き連れて、塔の中へ突入する。そこにはさらに多くのジュルディア兵が待機していた。アズキの侵入に気がついたジュルディア兵が、一斉に襲いかかる。アズキはそれを次々斬り伏せていく。後から続いて侵入してきた側近たちも、ジュルディア兵を斬っていく。


塔の内部に入ったアズキの側近の一人が、塔の中は鉄板で守られていなのに気がついた。中に火を放てば、塔を燃やせるかもしれないと思いついたのだ。


それをアズキに伝える。

「おおお、なるほど、お前頭いいな。あっ、でも火がねえぞ」

「アズキ将軍。それは問題ないです」

そう言うと、その側近は、手から紅蓮の炎を作り出す。側近の名はエムリダ。竜人族の魔法戦士であった。


塔に火が放たれて、勢いよく燃え盛る。それを見届けると、アズキたちは塔から脱出した。塔はその後、激しく燃え盛り、崩れ落ちていった。


最初の塔を破壊すると、アズキたちはすぐに次の塔へと向かった。



「すべての攻城塔が破壊されました・・」

報告を受けなくても、アッシュは自分の目でそれを確認していた。さすがに頼りにしてた攻城塔がすべて破壊されて、攻城戦の決め手を失ってしまった。


「このままでは消耗が激しくなりそうだな・・」

アッシュは、厳しくなる、この後の戦いを考えて、自軍の兵の被害が頭に浮かぶ。それはかなり厳しいものであり、堅実な指揮官であれば、撤退を考えるほどのものであった。

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