第74話 ジュルディア方面中央防衛戦

ジュルディア軍の本隊とも言える、軍師ブライルが率いる六万のジュルディア軍が、クリシュナ師団の防衛するジュルディア方面の中央へと進軍してきた。ジュルディアは三つの師団で、防衛する要塞に、波状攻撃を加えていた。


ブリトラ師団は要塞の北側から、ヴァルガザ師団は中央を、ティルトミ師団は南側から、何度も要塞に攻撃する。だが、クリシュナが防衛するこの要塞は、城壁が高く、守りが堅い上に、クリシュナ師団の精鋭は精強で、何度も攻撃してくるジュルディア軍の攻撃を跳ね返していた。


城壁の上からは、強力な魔法弾や、エルフの弓兵の一斉射撃などで、敵を打ち減らしていく。それらを盾で防いでも、巨人族の投げる大岩はどうすこともできずに、多くの兵に被害を出していた。


「ブライル様、各、師団から現状の打破をと願いが届いております」

「・・・わかっている・・もう少しで準備が整う・・今はまだ、無駄のような波状攻撃を続けてくれ」


軍師ブライルには、この強固な要塞を攻略する秘策があった。だが、その策を要するにはまだ、駒が足らなかった。


「クリシュナ様、敵の攻撃・・少し気になりますね」

「そうだな・・無駄に攻撃をしている様に見えるが、何かを隠している風にも見える・・」


クリシュナの予想通り、今のジュルディアの攻撃は、大きな策から目を背ける為のものであった。そして、ブライルのその策の準備が整った・・

「ブライル様、帝都から援軍が到着しました」

「やっと来たか、すぐに準備を進めてくれ」


ブライルがいる本陣からさらに後方・・アースレインには見えない小高い丘の向こうに、帝都からの援軍が到着していた。


ジュルディアが大きく動いたのはそれから少し経過してからであった。ヴァルガザ師団とティルトミ師団が大きく陣形を広げて、要塞全体に攻撃の幅を広げる。一度後方に下がったブリトラ師団は、二つの師団の陣形をかき分けるように後ろから現れた。


そして現れたブリトラ師団は、すごい勢いで、要塞の正門を目指して突撃してきた。固く閉じている要塞の門は、鋼鉄でできている強固な門である。騎兵や攻城兵の突撃くらいでは傷一つつかないと思われた。さすがに無謀に思われるその突撃であったが、進軍するブリトラ師団のその全体を、その大きな体から作り出した影で覆い隠すほどの巨体が、並走するように空を飛んでいた。


エターナル・マスタードラゴン。ジュルディアの守護神にして、最強の戦力。それがブリトラ師団と一緒に、アースレインの要塞の門へと向かって壮大に飛行していた。


さすがに、巨大なドラゴンの姿を目にして、アースレインの兵も動揺していた。どう対処していいかわからず、呆然と巨大なドラゴンの接近を見ていることしかできなかった。


マスタードラゴンを見て、クリシュナは眉を細める。そして兵たちにすぐに指示を出した。

「エルフ隊は弓と魔法で、一斉に攻撃せよ! 歩兵隊はそのまま城壁上から攻撃を継続、巨人族、獣人、騎兵隊は、敵の突入に備えるんだ!」


この時、クリシュナは門の破壊は避けられないと判断していた。なので、門を守る命令は出さずに、門の破壊後の対処を指示したのである。そしてその読みが正しいことはすぐに実証された。


マスタードラゴンの音波ブレスは、鋼鉄の門をいとも簡単に粉砕する。門が壊されて、要塞への入り口がガラ空きとなり、そこからブリトラ師団が突入していく。


事前に突入を想定していたクリシュナ師団は、ブリトラ師団が突入してきても、慌てることはなかった。なので要塞内ですぐに激しい戦闘が始まる。


ブリトラ師団は次々と要塞内へ侵入してくる。それを巨人族や獣人の部隊が迎え撃っていた。城壁のアースレイン兵は、ヴァルガザ師団と、ティルトミ師団の対応に追われて、中々、要塞内へ侵入したブリトラ師団の対応できない状況であった。


空を飛んでいるマスタードラゴンから、城塞の城壁の上をなぞるように音波ブレスが放たれる。ブレスを受けたアースレイン兵は、耳や目から出血して次々に倒れていく。


マスタードラゴンに反撃する為に、エルフの兵が矢や魔法で攻撃をするが、マスタードラゴンには全く効いていないようであった。そんな、下からの攻撃を嘲り笑うように、優雅に空を飛ぶ、巨大な竜は、次々とその口から音波ブレスを放ち、アースレイン軍を葬っていった。


その、アースレインの圧倒的な劣勢状況を、要塞の北側にある、高い塔の上から一人の人物が見ていた。エイメルから、ここに居る仲間を助けてやってくれと頼まれたアルティである。巨大な竜が、暴れまわる姿を見て、なぜ自分がここに派遣されたのか理解する。


フィルナは、この地に、ジュルディアの守護神を投入する可能性が高いことを読んでいた。防衛戦の中央を突破することによって、北と南の戦局もよくなる。なので重要な中央に戦力を投入することを予測していたのである。なので最強の師団であるクリシュナ師団を配置したのだが、それでもマスタードラゴンには手を焼くと考えていた。それを解決してくれるのがアルティの存在である。


自分の役割を理解した古の竜神は、本来の自分へとその姿を変える。空に放たれたその姿は、竜というより、神々しい存在に見えた。エターナル・マスタードラゴンより、さらにふた回りほど大きな体が、要塞の上空にいきなり現れたのだ、誰もがそれに驚いた。


「なんだあれは・・・」

後方にいる軍師ブライルからも、その存在を見ることができる。その大きさと、威圧感に、途轍もない恐怖が溢れてくる。


もちろん、エターナル・マスタードラゴンも、アルティの存在に気がつく。その強大な力を感じながらも、味方に害をなすであろう、その存在を消すために、先制の攻撃を放った。


マスタードラゴンのブレスは、アルティの体に届くこともなく、跳ね返される。アルティはそのお返しとばかりに、白く輝く白銀のブレスをマスタードラゴンに放った。


マスタードラゴンは、目に見えるほどのシールドを展開してそれを防ごうとしたが、そのシールドは無残にも弾けとび、白銀のブレスはマスタードラゴンの体を貫いた。それは圧倒的な力の差であった。最初から達人マスターと神では勝負は見えていたのだ。

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