第70話 ジュルディア方面北防衛戦

すでに戦いが始まって、二日が経っていた。ジュルディア方面の北側を防衛している、ルソ師団と突撃大隊は、予想を上回る戦いを繰り広げている。


ジュルディア方面の北側には、ドバヌを守る要塞と、北側にある山に作られた砦で構成されていた。山の砦にはルソ師団から2,000の兵と、突撃大隊3,000が駐留していた。要塞は、ルソ師団10,000が防衛しており、硬い防御を誇っていた。


攻めるはジュルディアの友好国による連合軍、その数、78,000・・この圧倒的多数に攻められても、この要塞は微動だにしていなかった。この二日で、被害が出ているのは連合軍の方だけで、アースレイン軍は、軽微な被害と、危なげない防衛戦を繰り広げている。


「何をしておるんじゃ。こっちの方が兵は多いのじゃろ、どうしてあんな城壁突破できんのじゃ」

小太りで、ハゲ頭の男が、この状況を理解していないのか、格下だと思われる男たちにそう言う。この男は、フボー国のタータリ王であり、この連合軍の総大将を引き受けていた。総大将と言っても、政治的な意味合いが強く、軍事的知識は皆無に近い。


「はい・・確かに兵の数ではこちらが圧倒していますが・・あの城壁は強固で、しかもアースレイン軍は想像以上に精強でありまして・・」

「言い訳は良いわ・・他の同盟国の軍が不甲斐ないからじゃないのか、しかも何も考えずに攻撃して、工夫をせんのか工夫を・・」

その工夫を考えるべく大将がこれでは、城壁を破るなど夢のような事に思える。


その日も、連合軍の単調な攻撃は続いていた。そんな不甲斐ない攻撃に、一番業を煮やしたのはタータリ王ではなく、山の砦に駐留していた、突撃大隊の大隊長であった。


「さすがにイライラが限界だ。俺はちょっと出撃するぞ」

ガゼン兄弟の弟、ウェルダはそう言うと、自らが指揮する、突撃大隊に集合をかけた。


突撃大隊は、敵の隙を見て、正門から外に出撃した。まさか敵が出てくるとは想像もしていなかった連合軍は、ろくな反撃も出来ずに、次々に斬り伏せられていく。

「おい。あそこを見ろ! 敵が出てきたぞ。あれは攻撃する好機ではないのか!」

戦術に無知識なタータリ王でもわかるほど、砦から出てくることが、どれほど不利な状況であるかは誰にでもわかることであった。すぐに連合軍は、出撃してきた突撃大隊に殺到する。


あっという間に敵に囲まれが、ウェルダは笑いながらその状況を楽しんでいた。

「どんどんかかってこい!」

アースレインの兵の方が個々の能力も上で、戦い慣れしている突撃大隊に対して、数だけの連合軍は、包囲しても決定打を与えることができない。集まった兵の分だけ、犠牲を増やしていた。


だが、数の優位が生きてくるのは、戦いが長く続き、疲れが蓄積されていくことによる、疲弊が大きいであろう。最初は圧倒的な強さを誇っていた突撃大隊も、やがてその勢いが弱まってくる。要塞の城壁上から、その状況を見て、ルソはつぶやく。


「何を馬鹿なことをしてるんだ・・だが、捨ててもおけんか・・」

そう言って、ルソは、配下の熊の獣人である、ベルア族の部隊に救出の指示をした。


ベルア族は、巨大な熊の獣人で、強固で力強い肉体を持ち、個々の力では、亜人の中でも1、2を争う強さを持つ強力な兵であった。それが集団となって、突撃してくる姿は、まさに恐怖でしかない。


500人ほどのベルア族の部隊は、突撃大隊を包囲する連合軍に突撃する。その最初の一撃で、千の敵兵が五体をバラバラにされ吹き飛ばされる。その戦慄の状況を見ていた敵軍は、反撃するどころか、一斉に逃げ始めた。


逃げ惑う敵兵を、ベルア族は強力な一撃で屠り、なぶり殺していく。さらに突撃大隊もその殺戮に加わり、連合軍は甚大な被害を出していた。


「ウェルダ殿、ルソ将軍が、さっさと撤退せよと言っています。あまり無茶をすると、怒られますぞ」

ベルア族の部隊長である、ゲナンゲーが、ウェルダにそう伝える。バツの悪い顔をすると、ウェルダはこう返事をした。

「わかった。俺も怒られたくないので、この辺で撤退するとしよう」

そう言うと、大隊を率いて砦へと戻り始める。それを見ると、ゲナンゲーもベルア族の部隊を、要塞へと退却させ始めた。


「なんだあの熊は! どうして戦場にいるのだ!」

「タータリ王。あれは熊ではありません。熊の亜人であるベルア族です」

「その熊の亜人がなぜ、我が軍を襲ってくるのだ! 卑怯ではないか!」

「アースレインは亜人を味方につけているのです・・」

そんな基本的な情報も把握していなかった総大将は、すでに二割ほどの兵を失っていた。そんな状況でも、熊に怯えるだけで、具体的な戦術を考えることはなかった。


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