第71話 辺境大連合方面西防衛戦

辺境大連合からの攻撃は、激しさを増していた。辺境大連合方面の西側を守るのは、高い城壁に守られた城と、長い城壁の形をした二つの砦であった。城の左右に砦があり、ドバヌへの侵入を防ぐ壁となっている。


左右の砦にはそれぞれ3,000の兵が配置され、城は6,000の兵が守っていた。


この地に、辺境大連合は二つの軍が攻めてきていた。一つはドゥラン帝国を中心とした軍で、もう一つはアントルン王国を中心としていた。どちらの軍も、五万近い兵力で、左右に分かれて攻め込んでくる。


圧倒的兵力差に、ジュゼは必死に指揮をとっていた。主に奮闘しているのは、左右の砦の兵たちで、どちらも、十倍以上の敵をよく凌いでいた。だが、砦に攻撃が集中している分、城への攻撃は少なく、その兵力の分配を少し後悔し始めていた。

「もう少し砦に兵を送ればよかったな・・」

砦の負担を考えると、そう思ってしまうが、後悔しても、戦闘が激化しているこの状況で、砦の兵を送るのは不可能である。


それでも大軍を押さえ込んでいられたのは、ジュゼ師団の高い防御能力のおかげであった。防御連携の高さもそうだが、他の師団より多く配置されているエルフ部隊の弓術の力も大きかった。


辺境大連合軍も、ドゥランとアントルンでもう少し連携して攻撃すれば、効率がいいのだが、二つの国は何かとライバル関係にある為か、競うことはあっても、協力することはなかった。その為に、数で押す単調な攻撃が続き、なんとか寸前のところで、防衛ができていた。


この地の防衛戦も、四日が経過して、防衛するジュゼ師団に疲労の色が見え始める。敵は数の優位を生かして、一日中、攻撃を途絶えさすことがなかった。ジュゼ師団も交代で休息をしていたが、そもそも兵に余裕がなく、十分に休めることができていない。


戦いに大きな変化が起きたのは五日目であった。奮戦するジュゼ師団に、味方が現れたのだ。それは、エイメル王の側近の一人であるリリスという女性であった。

「リリス殿、何か連絡でも持ってまいりましたか?」

ジュゼはたった一人でやってきたリリスが、エイメルかフィルナから、何かしらの極秘連絡を持ってきたのではないかと思った。だけど、彼女の口から出た言葉は意外なもので、理解するのに数秒の時間を要した。

「いや、あれじゃ、お主のところが一番苦戦しているようじゃから、援軍に行ってくれとエイメルに頼まれての、こうして来てやったのじゃ」


「・・・援軍? お一人でですか?」

ジュゼはリリスが召喚された超戦力だとは知らなかった。下手すればエイメルの寵愛を受けた愛人くらいに思っていて、まさか戦力とは思いもしなかったのだ。

「私一人で十分じゃろ。どれどれ、ちょっと敵に挨拶するかの」

リリスはそう言うと、城壁の上に立ち、そこから戦場を眺め始めた。



アントルン軍の将軍で、岩切のルベンスと言う将軍がいた。通常の鉄の剣で、岩を切り裂くほどの怪力で、一騎当千の猛将であった。そのルベンスは、アースレインの砦の一つを落とす為に、一万の兵を率いて、砦の裏側に回り込んでいた。砦のアースレイン兵も、かなり疲弊しており、裏側に回り込んできた敵を見て、さすがに焦りの表情になる。


「梯子をかけろ! 俺が登って活路を開いてやる!」

そう大きな声で言ったのが、ルベンスの最後の言葉であった。砦の裏側は、城の城壁からよく見えており、獲物を探して見ていたリリスが一番に見つけたのが、ルベンスが率いる部隊であった。リリスが作り出した火炎球は一直線でルベンスまで飛んでいき、そこで強烈な爆炎を撒き散らした。


まさに地獄絵図とはこのことを言うのではないか・・ルベンズの部隊は、絵に描いたような惨劇に見舞われる。ルベンスは火球の直撃で、一瞬で蒸発して、火球は大爆発、灼熱の炎を広範囲にまき散らした。ルベンスの率いていた一万の兵のそのほとんどがその炎に飲み込まれる。


焼きただれ、焦げた兵達が逃げ惑う。アースレインの兵も、あまりの光景に目を背ける。


何と・・ジュゼは目の前の光景を呆然と見ていた。強力な魔法攻撃というのを見たことはある。ジュルディアには城の城壁を崩すような強力な魔法使いがいるとも聞いたことがあるし、魔法攻撃自体はそれほど珍しくない・・だが・・これはそのようなものとは別物に思えた。


一撃で一万近い敵を葬り去る超魔法・・それはまさに神の鉄槌か、それとも悪魔の咆哮か・・そのどちらかなのかはジュゼにはわからなかったが、これでこの戦いの勝敗は決したと確信していた。


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