第69話 ジュルディア方面南防衛戦

ジュルディア方面の南側に進軍してきたジュルディア軍は、二つの師団であった。アッシュ師団とランザック師団、その兵数は四万と、防衛するアースレイン軍の二倍であった。


「来たな。思ったより数が少ないな・・」

アズキは敵の兵数を見て、想像より少ないことを懸念していた。敵の総数から考えると、この倍はいてもいいはずだが・・自分の担当する敵が少ないということは、他の担当者のところに、より、多くの敵が殺到していることを意味しており、それを心配していた。

「全軍、戦闘準備! 絶対に城壁を登らせるなよ!」


アズキの命令で、アースレイン軍は慌ただしく動きだす。



アズキの防衛する要塞を前に、ジュルディアの二人の将軍は、どう攻撃するか話をしていた。

「要塞はともかく、あの、三つの砦が厄介だな」

「確かに、絶妙な位置だな・・どこを攻撃しても、他の砦や要塞から、攻撃を受けそうだ」

「そうなると選択は一つだ」

「うむ。同時攻撃だな」


そう決まると、二人は話し合い、担当を決めた。それで、アッシュ師団が要塞を攻撃して、ランザック師団が、三つの砦を攻撃することになった。


まずは砦を無視して、アッシュ師団が要塞に突撃する。当然、三つの砦から無数の攻撃が降り注ぐ。その攻撃を上に掲げた盾で防ぎながら、要塞までたどり着く。そこまで、移動と防御に徹した為に、被害は軽微で済んでいた。


次に、ランザック師団が三つの軍に分かれて、それぞれの砦に攻撃を開始いした。そうなると、砦から、アッシュ師団への攻撃をする余裕はなくなり、それぞれ、砦を守る為の戦いへと変更する。砦からの攻撃がなくなったアッシュ師団は、要塞攻略に集中できることになる。


要塞化したドバヌの情報は、ジュルディアにも入っていた。もちろんそんなドバヌを攻略する為に、何の準備もしてこなかったなんてこたなどあるわけもなく、攻城戦用の道具、兵器は準備されていた。


まず、最初に投入されたのは、連結式の梯子であった。それを数百、用意していて、一斉に要塞へとそれをかけた。しかし、アースレイン軍もそれを黙って見ているわけはなかった。

「梯子を落とせ! 敵を上まで上ろせるな!」

あらかじめ、城壁を防衛する為に、通常の武器以外で、下へ落として攻撃できるように、城壁の上にはあらゆるものが持ち込まれていた。大量の石に、大きな丸太など、城壁上から、梯子を上ってくるジュルディア兵に対して、落としていく。人の頭くらいある石が、ボコボコと落ちてきて、それにぶち当たった兵が、真っ逆さまに落ちていく。


梯子のほとんどは、上からの火矢や魔法の攻撃によって粉砕される。辛うじて壊されるのを免れた梯子で上まで上がることに成功した兵も、城壁上で、多数の兵に囲まれて瞬殺されていく。


「さすがに梯子じゃ無理か・・・」

その状況を見て、アッシュ将軍がそう呟く。攻城戦用に作らせた、攻城塔と呼ばれる兵器の組み立てを急がせていた。



砦の一つが危険な状況に陥っていた。ジュルディア軍が、捨て身の攻撃で、砦の城壁の一部に、楔を打ち組むことに成功したのである。そこを起点に、いくつも楔を打ち付けて行って、足場を作っていく。


「多数の犠牲を出しましたが、もう少しで足場が完成します」

ランザック将軍は、部下の報告に頷く。足場が完成すると、そこから多数の兵を、砦の城壁に送り込むことができる。そうすれば、砦が落ちるのも時間の問題と思われた。


要塞の右にある、その砦の指揮を執っていたのは、アズキの部下で、シュレイザという、千人長の位の竜人族の将官であった。シュレイザは、竜人族の戦士の中でも、その高い戦闘能力で知られている。指揮能力が低いわけではないが、やはり武力が突出している武将であった。


策を要するのが好きではないシュレイザは、砦に、足場を作られても、特に慌てることもなく、足場の位置から、上へ上がってくるルートを予想して、その場に自分を含めた、精鋭の兵を配置した。

「敵が現れる場所が予測できるのは楽でいいな」

シュレイザの言葉に、周りの精強な兵たちも同意する。


そんなことだとは知らずに、多数の犠牲を出して、楔を打ち込み、城壁へ登る為の道を作り出した。ランザックは、すぐに多数の兵をそこから上へと上らせた。


楔を上って、最初に砦の城壁上へとやってきたのは、30名ほどであった。城壁の上では、シュレイザの率いる、精鋭の100名のアースレイン兵が待ち構えていた。まさに瞬殺であった。数もアースレインの方が多く、その全てが精強の兵に、為す術もなく斬られ、城壁の上から落とされる。さらに50名ほどが登ってきたが、結果は変わらず、次々と斬られて、そこから落とされた。


城壁上への道が出来て、軽く落とせると思った砦で、思った以上の犠牲を出している。さすがにその状況を見て、ランザックは眉を細めた。

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