第68話 包囲網

ジュルディア軍は、ドバヌへ向けて、5師団、十万の大軍で包囲を開始した。それと同時に、友好国家連合軍である七万八千の兵もその包囲に加わる。そんな、ジュルディアの動きに合わせて、辺境大連合も軍を動かし始めた。総兵力二十二万を五つの軍に分けて、ドバヌを包囲していく。


これにより、アースレイン軍の包囲網に参加している兵力は四十万近くにもなった。いくら要塞化しているドバヌの守りでも、通常であれば防ぎきれる兵力ではなかった。



「さて、凄い数に包囲されちゃったけど、どうしようか」

裕太がそう言うと、最初にアズキが反応する。

「軽いなエイメル。四十万の大軍だぞ。まあ、私もワクワクしてるけどな」

「二人とも、真面目に話し合いましょう。さすがにこの兵力差だと、ちゃんと作戦を立てないと・・」

ここはアリューゼの意見が正しい。軍師のフィルナが話を切り出した。

「確かに、敵の方が遥かに多数であり、こちらが劣勢のように見えるけど、地の利は辛うじてこちらにあるから、十分戦えると僕は思っている」


「それでどのように戦うのですか軍師殿」

ルソがそう聞くと、軍師フィルナが説明を始める。

「唯一の利点である、地の利を生かすには、防衛戦しかない。守りを固めて攻撃を防ぐんだ」

「守ってばっかじゃ勝てねえんじゃねえか」

アズキの大雑把な意見に、怒ることもなく、フィルナは説明を続ける。

「そんなことはないよ。守ってても、敵の数は減っていくからね」


確かに、いくら大軍でも、いつまでも攻め続けるのも不可能である。

「だとしてもいつまで守ってりゃいいんだ。さすがに飽きるぞ」

身も蓋もないアズキの言葉に、フィルナはこう答える。

「そんなに長くはならないよ。防衛戦と同時に、幾つかの策を要しているから」

さすがに優秀な軍師である、フィルナは先のことをちゃんと考えてくれているようである。


この後、話をして、防衛戦の配置が決まった。ジュルディア方面の南には、アズキ師団、15,000と汎用大隊、5,000。ジュルディア方面の中央にはクリシュナ師団、15,000。ジュルディア方面の北には、ルソ師団、12,000と突撃大隊、3,000。辺境大連合方面の西側はジュゼ師団、12,000。辺境大連合方面の中央には、アリューゼ師団、12,000。そして、辺境大連合方面の東側には、近衛大隊、5,000と、ファシーとヒュレルの二個特務大隊の6,000が防衛する。


「さて、全兵力を配備したから、予備戦力はない。厳しいかもしれないけど、誰も助けに来てくれないって思って戦って欲しい」


俺の言葉に、師団長、大隊長、全員が頷き、そして立ち上がる。


どの軍にも、十分な水と兵糧を準備した。それは半年くらいなら戦える量であった。まあ、そんなに長く戦ってたら、アズキが飽きて、敵陣に突撃しちゃうと思うけど・・・



アズキが防衛する、ジュルディア方面の北側は、巨大な城壁を持つ要塞と、三つの砦で構成していた。要塞右側の砦と、中央の砦、そして左の砦。それぞれ高台に作られていて、お互いを守れる位置にあり、さらに要塞からも防衛できる、絶妙な場所に作られていた。各、砦には2,000の兵を配置して、要塞を守るのは14,000の兵たちであった。アズキ師団と一緒にここを防衛する、汎用大隊の隊長は、ガゼン兄弟の兄であるダグサスであった。


「姉御、防衛戦なんて性に合わんでしょう」

ダグサスがそうアズキに話しかけると、アズキも同意するようにこう答える。

「まあ、嫌だけど、仕方ないよな・・・」

「あれだったら遊撃隊で出撃しますか? 精鋭で構成して、少数で暴れるのなら問題ないでしょ」

魅力的な提案であった。アズキが本気でそれを考えていると・・アズキ師団の副官は、ルサスという常識人で、天才と呼べるような非凡な将ではなかったが、十分優秀な副官であった。そのルサスが、そのダグサスの案に待ったをかける。

「いえ。アズキ師団長は、この要塞の最高責任者ですよ。それが遊撃隊で出撃するなんて、ありえませんよ」

「だけどよう。ルサス。防御ばっかしてると、飽きるぞ」

「飽きても守りに徹してください」


ブーブー言いながらも、正論であるルサスの意見を無視するわけにはいかないと、アズキはその案を諦めた。そんなアズキの心の葛藤など意に返さず、遠く彼方から、大軍の進軍が見えてくる。それは、この要塞を攻略する為にやってきた、ジュルディア軍の姿であった。

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