第64話 驚異的な力

クリシュナ師団は、ジュルディアの国境近くに布陣していた。それはジュルディア軍への牽制の為なのだが、不測の事態が起こる。ジュルディア軍がアースレインを挑発する為に、国境を越えて、侵攻してきたのだ。


そのジュルディア軍を指揮しているのは、ヴァルガザと言う将軍であった。ヴァルガザは、ジュルディアで一番の問題児とされ、軍師ブライルの指示を無視する常習犯であった。問題児ではあるが、その武力と統率力はジュルディアでも屈指の実力者で、軍師ブライルもそれを認めている。


「はははっ。アースレインとはどれほどのものか、このジュルディアの怪将ヴァルガザに見せてみろ!」


クリシュナは戦闘は想定していなかったが、さすがに国境を越えて侵攻してくる敵軍を無視するわけにはいかない。すぐに戦闘準備をして、侵攻する敵に向かっていく。


ヴァルガザの率いる二万のジュルディア軍に対して、クリシュナ師団は一万五千、劣勢ではあるが、十分、戦える兵数であった。


ヴァルガザは、自軍に近づく、アースレイン軍を見て、喜びの叫びをあげる。

「うっしゃ! 戦えるぞ! さあ、かかってこいアースレイン!」


アースレインの先鋒は獣人化した、獣人族の部隊であった。巨大で俊敏な、獣の群れに、ジュルディアの騎兵隊は蹂躙されていく。前衛の騎兵隊が崩れていくのを見て、ヴァルガザはすぐに長槍を装備した重装兵を前へと出した。


獣兵への対抗で出した重装兵であったが、その目論見は崩れる。なぜなら騎兵隊に一撃を加えた獣兵の群れは、すぐに後方へと下がっていく。代わりにアースレイン軍から前に出てきたのは巨人族の部隊であった。強力なハンマーで、重装兵はなぎ倒されていく。


ヴァルガザは、魔法兵団でその巨人たちに対抗しようとした。だが、その魔法兵団に、上空から強力な魔法攻撃の雨が降り注ぐ。ジュルディアの誇る、魔法兵団を遥かに上回る射程から、強力な魔法攻撃を繰り出したのは、アースレインのエルフ魔兵団であった。人間より高魔力であるエルフの魔兵は強力で、その一撃で、ジュルディアの魔法兵団は崩壊する。


「ガハハハッ。ムチャクチャ強えじゃねえかアースレイン!」

一方的な攻撃に何もできないヴァルガザは、豪快な笑い声を響かせる。


「ヴァルガザ将軍! かなり劣勢です。ここは無理に進軍しない方が良いのでは・・」

「馬鹿野郎! そんなのはわかってる。だが、帰る前に、アースレインの強さを肌で感じてえ」


そう言うと、ヴァルガザは、単騎で駆け出し、アースレイン軍へと突撃してきた。


驚くべきはその武力であった。立ちはだかる巨人族の兵を、その巨大な剣で吹き飛ばすと、アースレインの前衛をなぎ倒して、奥へ奥へと進んで行く。


しかし、そこでヴァルガザの前に立ちふさがったのは、アースレイン最強の男であった。


「せっかく、単騎でこんなところまで来られたのだ。丁重にもてなそう」

クリシュナの言葉に、豪快に笑いながらヴァルガザはこう返す。

「そうかそうか。それは楽しみだな・・では、早速ご馳走をいただこうか!」


そう言ってクリシュナに斬りかかる。並の強者であれば、この一撃で体を真っ二つにされていただろう。それほどの斬撃を、クリシュナは涼しい顔で跳ね返す。そして鋭く重い一撃を、ヴァルガザに繰り出した。それを辛うじて避けるが、肩の一部が、防具ごと吹き飛ばされる。その攻撃で、全てを悟ったヴァルガザは、豪快に笑いながらこう言った。

「ガハハハッ。これは俺の敵う相手ではないな・・悪いが逃げさせてもらうぞ」


そう言って逃走を始めた。


アースレイン軍は、敗走するヴァルガザを追うが、猛牛の突進のように、激しい敗走は、アースレインの兵たちが止めることができずに、そのまま逃がしてしまう。だが、そんなヴァルガザの後ろ姿を見て、クリシュナは少しの笑みを見せた。

「面白い奴だ」


すごい形相で逃げてくるヴァルガザを見て、ヴァルガザの副官であるジイドは、驚いていた、あんなに必死で逃げてくるヴァルガザを見たことなかったからである。

「ジイド! 全軍撤退だ! このままでは皆殺しにされるぞ! あいつらバケモンだ!」

アースレイン軍に突撃したヴァルガザは、尻尾を巻いて逃げてくると、副官にそう叫んで撤退を指示した。


副官のジイドは、すぐに周りに撤退を伝えて、敗走の準備を始める。ヴァルガザも逃げながら隊に指示を出して、被害を最小限に抑えようと軍を動かした。


「なかなかの逃げ足だな」

クリシュナがそう呟く通り、ヴァルガザの撤退は見事なものであった。通常であれば大打撃を受ける敗走に、自らが殿を勤めて、その被害を最小限に抑えた。軍もよく統制がとれていて、その行動に迷いがない。逃げると決めたら逃げる。そんな目標に一直線に進むことができる軍は強い軍であると、クリシュナは考えていた。



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