第61話 三勢力

ドバヌで駐留しているアースレイン軍は、いつでも戦えるように、準備だけはしていた。辺境大連合の勢力の国境沿いに、アズキの師団とジュゼの師団を配置して、ジュルディアの国境沿いにはクリシュナの師団とルソの師団を配置する。アリューゼの師団と各大隊は、状況によってどちらにも投入できるように後方に配置した。


「辺境大連合の動きはどうなってる」

裕太が聞くと、長い間、辺境大連合の動きを偵察していた、ファシーとヒュレルが答える。

「辺境大連合は、ほぼ全軍で国境付近で布陣してますよ」

「そうね。兵数は二十五万はいるみたいですが、烏合の衆ですわ」


「二十五万は多いな。アズキとジュゼの師団だけではさすがに守りきれないかな・・」

ちょっと敵の兵数を聞いてビビってしまう。



ジュルディア軍も、軍師であるブライルが、十万の大軍を率いて、ドバヌに隣接する、メサラームに布陣していた。


「辺境大連合は、ほぼ全軍でやってきましたか・・まあ、餌も大きくなくては大物は釣り上げられないでしょうからね」


「どう動きますか軍師ブライル」

アッシュ将軍がそう聞くと、青い髪の、まだ若く、幼い表情が残る青年の軍師は、軽くこう答える。

「まあ、こちらから動く必要はないでしょう。守備を固めて、攻撃に備えるだけで十分です」



辺境大連合は、ジアーノンのミュラ七世が総大将となり、全軍で出撃していた。それはアースレインとジュルディアを誘い出す為であるが、この戦いで、ジュルディアに大打撃を与えると、強い意志を持っていた。


「ジュルディアとアースレインに動きはありません」

「さすがに簡単にはぶつかってくれんか・・・」

さすがに流言だけで、簡単に二つの勢力を戦わすことは難しかったようだ。


「よし、揺さぶりをかけるぞ。ジュルディアに使者を送る」

「どのような内容ですか」

「アースレインが、ジュルディアの領土を狙っていると、辺境大連合が手を貸すのでともにアースレインを討たないかと、それとアースレインにもジュルディアがアースレインの領土を狙っていると、辺境大連合が手を貸すのでともにジュルディアを討たないかと、使者を送るのだ」


「はっ。ではすぐに使者を手配します」


どちらかが、乗ってくれば、そっちについて戦う振りをして、アースレインとジュルディアを戦わせる。どちらも乗っても同じように、手を貸す振りをして、両国を戦わせる。どちらも乗ってこなかったら、どちらにも手を貸している振りをして、友軍のように近づき、騙し討ちにすれば良い。


ミュラ七世の、最大の欠点は、自分が天才策略家だと思い込んでいるところであった。確かに非凡な才を持つのは間違いないが、彼より策略に精通している者は、珍しくはなかった。今、自分が策に陥れようとしている敵には、自分を遥かに上回る策略家がいることを、想像にもしていなかったのだ。


もちろん、ミュラ七世の策は、ジュルディアの軍師にも、アースレインの軍師にも、完全に読まれていた。そしてその策を完全に利用される。


「何、両国とも、乗ってきたか! よし。では、両国に三万ほど軍を送りつけよ。そして油断させるだけ油断させて、後方から騙し討ちして大打撃を与えよ。


辺境大連合は、ジュルディア、アースレインともに三万の軍勢を友軍として送った。両軍とも、味方である辺境大連合の軍に攻撃を加えるはずがないのに、なぜか両軍とも、すぐに辺境大連合へと攻撃を開始した。


辺境大連合は、何が起こっているのかわからないまま、戦いに突入する。ミュラ七世からは、騙し討ちにせよと言われたが、これでは騙し討ちにされたの辺境大連合の方ではないか・・完全に騙し討ちをする予定であった辺境大連合の軍と、先制攻撃で大打撃を狙ってきた。ジュルディアとアースレインの両軍では、その戦いに大きな差が生まれていた。一方的に攻撃されて、必死の思いで逃げ延びる。


「何! 両国から攻撃されただと・・手を結ぶと思わせて騙し討ちにするとは卑劣な奴らめ・・・」


自分の策など棚に置き。怒りに狂ったミュラ七世は、戦いの命を出す。副盟主のアントルンのシミナ王とロギマスのフルーブル王は、元々、戦う為にこの地へやってきていたので、それを止めることもしなかった。


ミュラ七世の、下手な策略があったが、ここから、辺境の三大勢力による、大きな戦いが本格的に始まるのであった。

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