第60話 大戦の前触れ

グルガナ軍が、エウロパの攻撃に失敗したと報告が来た。話では敗北というより、痛み分けとのことだが、そんなのはどうでもいい。一番の問題は、自分の思い通りのことが運んでいないということであった。


「どいつもこいつも役に立たない者ばかりだ・・」

「グルガナばかりに任せているのがいけないのではないか」

アントルン王国のシミナ王がそう言うと、ジアーノン王国のミュラ七世が同意する。

「そうだな・・何が軍事大国だ。負けてばかりではないか。こうなっては辺境大連合の全軍にて、その力を見せるしかないようだな」

「全面対決は時期早々ではないか? まだ、戦力に不安があるぞ」

「アースレインを利用する」

「何! それはどういうことだ」

「三つ巴の戦いに持ち込むのだ。できればジュルディアとアースレインをぶつけて漁夫の利を得る」


「なるほど、それなら十分、勝つ見込みがあるな・・」

「早速、そう動くとしよう。ロギマス王国のフルーブル王にもすぐに連絡しなければな」


この、辺境大連合の思惑が、辺境全国家が巻き込まれる大戦を引き起こすことになるとは、この時は誰にも予想できていなかった。



ジュルディア帝国、皇帝であるジュレンゼ三世は、ジュルディア軍の軍師である、ブライルと、側近であるルマデン伯爵を呼んで、今後の方針を話し合っていた。


「それで辺境大連合は、これからどう動くと思う」

ジュレンゼ三世がそう聞くと、軍師ブライルがこう答える。

「はい。おそらく、全軍での軍事行動に出ると思われます。度重なる敗戦で、ジアーノンのミュラ七世はかなり気を詰めていると思いますので・・」

「ルマデンはどう思うのだ」

「はっ、私も軍師ブライルと同意見でございます。大規模な軍事行動が予想されます」

「そうか・・・密偵の情報では、辺境大連合の各国は、少し強引な徴兵や、傭兵の雇用で、戦力を増強していると聞く。当初の総兵力、二十万との見立ても、かなり違ってくると思うが、我が軍は勝てるか?」


「辺境大連合には負けはしないでしょう。ただ・・」

「ブライル。何か気になることでもあるのか」

「アースレイン王国という国が、辺境東部を統一したと聞いています。もし、そのアースレインが、辺境大連合と組することになりますと、かなり危険な状況になる可能性があります」


「アースレイン・・・聞かぬ名だな・・」

「もとは東部の小国だった国です」

「そんな成り上りの小国など、恐れることはないだろ」

「いえ・・小国から、短期間で、あれほどの力をつけたとなると、それは無視できない勢力です」


ブライルは、その力を読み切れる辺境大連合より、未知の勢力であるアースレインの方が危険だと感じていた。偶然で片付く成長ではない。何か得体の知れない力を予見していた。


「それならば、我が国の友好国を取りまとめ、辺境大連合を討伐する軍を起こすとしよう」

「それは良いお考えかと、早速、フボー国、エンベリン王国、スタニア連邦などに使者を送りましょう」


ジュルディアと親交の深い国々に呼びかけ、辺境大連合の討伐の軍を起こすことを決め、その日の話し合いは終了した。ジュレンゼ三世は城の中央にある、大きな中庭のバルコニーへと向かう。


ジュレンゼ三世の姿を見つけると、巨大な影がゆっくりと近づく。それは数十メートルはある、巨大なドラゴンであった。ジュルディアの守護神にして、王の良き友であるこのドラゴンがいる限り、どんな敵にも負けはしないと、心の底から思っていた。



それからしばらくして、ジュルディア帝国に、アースレイン王国の軍が侵攻してくると知らせが届いた。その数は10万近い大軍で、すでに、国境近くのドバヌに駐留しているとの報告であった。


しかし、その報告を聞いたブライルは首をかしげる。

「今、アースレインがジュルディアを攻め入る意味はなんですか・・・」

やはり納得のいく答えを出すことができない。ということは、アースレイン軍が意味のないことをする大バカか・・またはこの情報自体が、どこかの誰かが流した流言か・・多分後者であろう。アースレイン軍の動きが本当だとしても、おそらくアースレインはジュルディアを攻める気はないと考えられる。


後で情報を調べると、確かにドバヌにアースレインの大軍が駐留しているのは本当であった。もし、それがジュルディアへの侵攻の為だったら大変なことになる。念のために、軍師ブライルは、ジュルディア全軍を招集して、ドバヌに隣接するジュルディアの領土である、メサラーヌへと移動するように指示を出した。



アースレイン軍は、ドバヌに全軍を集結させていた。だが、それはジュルディアへの侵攻の為ではなく、辺境大連合の大軍が、ドバヌへ向けて侵攻しているとの情報が入ったからであった。


「フィルナ。辺境大連合は、本気で攻めてくる気かな」

「それは無いよ。多分、大軍を侵攻させてきたのは、アースレイン軍をここにおびき出す為だと思うからね」

「え、どういうこと?」

「ここは辺境大連合とも、ジュルディア帝国とも隣接している、言わば三勢力が交わる場所だからだよ。おそらく、ジュルディア帝国には、アースレインがジュルディアに攻めて来ると、報告は入っているはずだからね」

「ええ。どうしてそんな嘘つくんだよ。うちはまだジュルディアとは戦うつもりはないよ」

「戦って欲しいと思っている連中がいるんだよ」

「辺境大連合のやつらか・・」


アースレインの軍師も、ジュルディアの軍師と同じように、その違和感のある動きに気がついていた。だが、双方にその計略を見破られているとは夢にも思っていなかった。




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