第62話 大戦の序曲

ドバヌに向けて、辺境大連合の軍が、侵攻していた。その軍の編成は、ドゥラン帝国を主軸に、ミュジ、ラルタ、ディア、コルスタ、オルブムと言った国々の軍が参加していた。その総兵力は八万、辺境大連合の三分の一の戦力であった。


それを迎え撃つのは、アズキの師団とジュゼの師団の二個師団であった。兵数は二万七千と、辺境大連合軍を大きく下回る。だが、アースレインには地の利があった。ドバヌは要塞化されていて、辺境大連合が侵攻してくる、北の国境沿いも、複数の砦が作られていて、その守りは堅い。


一番北の砦に、辺境大連合のディア軍が攻撃を開始したのは、戦いが始まってすぐであった。砦を守るのは、アズキの師団の部隊であった。その兵数は1,000。対して、ディア軍は6,000と六倍の兵力であった。


だが、この北の砦の近くには、アースレインの別の砦があり、高台に設置されたこの砦から、北の砦の敵に対して、矢や魔法で攻撃を加えることができた。北の砦を攻撃するディア軍は、この砦からの攻撃も受ける為に、その数を打ち減らしていった。


辺境大連合も、その高台の砦に気がついていて、その砦を落とす為に、高台の裏からミュジ軍を向かわせていた。その兵数は12,000。高台の砦の兵数は2,000と、敵をかなり下回る。


しかし、その動きに合わせ、ジュゼの師団が動き出していた。ミュジ軍を叩く為に、高台の裏に回り込んでいた。


ミュジ軍は、高台の砦に攻撃を仕掛けるが、すぐに側面を、ジュゼの師団によって突かれる。ジュゼ師団の兵数は12,000。ミュジ軍と同数であるが、先方の鉄騎兵団の突撃力は凄まじく、ミュジ軍の側面を削り取るように殲滅していく。


この辺境大連合軍の総大将である、ドゥラン帝国のアグザ将軍は、高台の裏の戦況はよく見えていなかった。なので、ミュジ軍の劣勢にも援軍は送らずに、静観していた。


しかし、高台の砦がいつまでたっても落ちないので、さすがに不審に思ったアグザ将軍は、ラルタ軍を高台裏に向かわせ、北の砦を攻撃しているディア軍の援軍に、オルブム軍を向かわせる。


高台裏ではミュジ軍と、ジュゼ師団が戦っていたが、圧倒的にジュゼ師団が押していた。そこへ8,000のラルタ軍が参戦してくる。


「ジュゼ様、敵の増援です」

「敵の方が絶対数が多い。そりゃ援軍も来るだろうに」

しかし、ジュゼには焦りの色はない。落ち着いて、敵の援軍に対処するように指示を出す。

「キュマの隊とリザードマン隊で敵軍の増援の足を止めろ。ルイセス隊は回り込んで敵の側面をつけ!」

ルイセス隊は、ジュゼ師団が誇る、鉄騎兵団であった。兵数は二千と多くはないが、その突撃力は、数万の歩兵隊のそれを上回る。


ラルタ軍の登場で、先ほどまで一方的にやられていたミュジ軍も、少し態勢を立て直すことができた。しかし、高台の砦からの攻撃に、思うように行動ができないでいた。


北の砦を守る、アズキ師団の部隊は奮戦していた。ただでさえ六倍の敵に攻撃されているのに、さらにそれと同等の敵の援軍が現れたのである。さすがに苦戦を強いられていた。


各、砦に分散しているアズキ師団であったが、アズキがいる本隊は、静かに身を潜めて、敵の本陣の背後に出ようとしていた。


「みんな行くぞ・・・」

アズキはそう言って静かに草むらから姿を出す。そこからは一気に走って、敵の総大将に向かって突撃する。


さすがに後方から敵襲があるとは考えていなかった、ドゥラン帝国のアグザ将軍は、すぐ近くに、アズキの部隊が接近するまでそれに気がつかなった。


前方に隊を編成していたドゥラン軍は、後方はガラ空きであり、そんな、後方に孤立していた本隊を強襲されて、一気に混乱が広がった。


強襲したアズキの部隊は3,000の精鋭であった。ドゥラン軍の本隊は5,000と、それでも数では上回っていたが、混乱と、アズキの部隊が精鋭であることもあり、一気に追い詰められる。


アグザ将軍は、辺境大連合の中でも、一、二を争う猛将であった。その武力は辺境に名を知られているほどの力を持っているが、飛び込んできた、アズキの一撃を受けて、自分の武力が、辺境最強ではないことを悟った。


「くっ・・・何だこの力は・・」

アズキがアグザ将軍を圧倒する。アグザ将軍は、辛うじて致命傷を防ぐが、長くは持ちそうになかった。このままでは討たれると感じたアグザ将軍は、恥を捨ててその場から逃走しようとした。だが、そんな隙を逃すほど、アズキは甘くはない。一瞬で跳躍して、アグザ将軍の真上に飛ぶと、そのまま落下するスピードを利用して、剣を振りをろした。アグザ将軍は、そのまま一刀両断で斬り伏せられる。

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