第47話 圧倒的な戦果

アリューゼは、ラルタ軍は三つの部隊に分かれたのを見て、その意図を理解した。すぐに軍を動かして、逃げ場を失わないように移動する。さすがに足を止められたら、これだけの兵数の差では一溜まりもないだろう。


ただ、アリューゼも闇雲に逃げ回るだけを考えていなかった。敵部隊をかすめるように移動すると、攻撃を加えて、地味なダメージを繰り返していた。


小賢しいアースレインの動きに、ラルタ軍のメルビム将軍は苛立ち始めた。それは友軍であるミュジ軍にも向けられる。

「それにしてもミュジ軍は何をしているのだ。なぜ、軍を分散して、包囲に加わろうとしないのだ」


ミュジ軍のクフール将軍は、メルビム将軍の意図も理解しておらず、逆にその動きに不満を感じていた。

「何だラルタ軍のあの動きは・・アースレインの軍に、みっともなく振り回されよって・・・」


アリューゼにとっては、ミュジ軍とラルタ軍が、連携が取れてないことでかなり助けられていた。今のままであれば楽にその役割を全うできそうであった。



中央の山を西廻りで移動していたアズキ、ガゼン兄弟、クリシュナ、そして裕太の本隊は予定通りに、進軍していた。


中央の山の西側に来ると、クリシュナ部隊はそのまま北上していく。残りは、西に布陣しているアドチア軍へと向かった。


アースレイン軍の接近を見て、アドチア軍の将軍である、フゲン将軍は陣形を鶴翼の陣へと編成していた。広く部隊を展開して、アースレイン軍を包囲して殲滅する目論見であった。


敵の陣形を見たフィルナは、軍を密集させる。魚鱗の陣と呼ばれる陣形で、持久戦に優れており、包囲されても、陣を崩されにくいものである。


アースレインは、先方をアズキ、左右にそれぞれ、ガゼン兄弟が布陣していた。後方には本隊が控えており、それぞれの部隊を補助する予定である。


最初に戦端を開いたのはアズキであった。押し寄せる敵を、部隊の先頭に立って薙ぎ払っていく。その勢いは凄まじく、斬られた敵が吹き飛んで宙を舞うほどであった。


アースレイン軍の密集している陣形に、アドチア軍が覆いかぶさるように包囲していく。左右に展開している、ガゼン兄弟の部隊にも、その容赦ない攻撃が襲いかかる。なるべく陣形を密集して、敵が入らないように防御に徹する。兄のダグサス・ガゼンは巨大な戦斧を振り回し、敵兵を蹴散らしていく。弟のウェルダン・ガゼンは巨大なハンマーで、接近してくる敵の頭を、次々と粉砕していった。


一見、アースレイン軍を包囲して、アドチア軍が圧倒的に押しているように見える戦況であったが、地に倒れていくのはアドチア軍の兵ばかりであった。熱い鉄板に、氷を押し当てて、それがすり減っていくように、アドチア軍は犠牲を出していった。


「なぜだ・・なぜ包囲している我が軍ばかり減っていっているのだ・・」

戦況を見て、アドチア軍のフゲン将軍は、思わずそう呟いていた。


さらに追い討ちをかけるように、アドチア軍に異変が起こる。兵が足から凍りつき始めたのだ。その現象はアドチア軍の中心から始まり、徐々に広がりを見せていた。


それはアースレイン軍の本隊にいる、リリスの攻撃魔法であった。裕太が、魔法での援護を頼むと、彼女は呪文の詠唱に入り、それをアドチア軍に放出したのである。人間では不可能な、強力な魔力による攻撃魔法に、何が起こっているのか理解できず、次々と氷漬けになるアドチア軍は、恐怖で、その場から逃げ出し始めた。


完全に陣形を崩したアドチア軍に向けて、フィルナは、さらなる攻撃を指示した。それは、組織力が崩壊した敵に対する、殲滅攻撃であった。ほとんど無抵抗のままにアドチア軍は殲滅されていく。


「何をしている! 攻撃を、攻撃をしないか!」

そう叫ぶフゲン将軍に、アースレインの赤い鎧の女将軍が迫る。アドチア軍の勇将がそれに気がついた時、すでにその光景を見た頭は、体から切り離されていた。


この戦闘に参加したのは、アドチア軍、7,000に対して、アースレイン軍、7,000、全くの互角の兵数とは思えないほどの、圧倒的な結果で終わった。アースレインの戦死者は21名、アドチア軍はそのほとんどが死傷して、地に倒れているか、氷漬けになって地に立っていた。




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