第46話 チルドアの戦い

グルガナ軍は現アースレイン王国の領地で、チルドアと呼ばれる地方の、小高い丘に布陣していた。ここからだと視界が良く、広く見渡せる。

「アースレイン軍の動きはどうだ」

「はっ、どうやら、中央の山向こうに布陣しているようです」


チルドア中央には、標高600mほどの小さな山が聳えていた。グルガナ軍とアースレイン軍は、この中央の山を挟んで対峙していた。


グルガナ軍が、チルドアに布陣してから数刻後、ミュジ共和国の軍とラルタ王国の軍がこの地に姿を見せた。両軍共、グルガナ軍が布陣している小高い丘の東側で待機をしていた。グルガナ軍の動きを見て、連携を取ろうと考えているようである。


「グルガナ軍は北西の小高い丘に布陣。ミュジ軍とラルタ軍の姿も見えます。両軍共、北東にて待機中のようです」

物見の情報を聞いて、フィルナは少し考える。情報ではもう二国の軍がここに向かっていると聞いている。それがどこに現れるかわからないうちは、まだ、動かない方がいいだろう。


アースレイン軍は五つの部隊を編成していた。第一部隊はアリューゼが率いる奇兵隊2,000、第二部隊はアズキ率いる歩兵隊3,000、第三部隊は、ガゼン兄弟が率いる歩兵隊2,000、第四部隊はクリシュナ率いる混成部隊が2,000、そしてエイメルが率いる本隊が2,000であった。本隊は2,000と少数であったが、超戦力のリリスや、エレメンタラーのラスキー、軍師のフィルナもここに配置されているので、戦力としては十分と考えていた。


しばらくして、中央の山の西側に、アドチア王国とルドヒキ連邦の軍が姿を見せた。これで辺境大連合は、この戦いに参加する全戦力が揃ったこととなる。


すぐに物見の報告で、フィルナも、敵のすべての軍の位置を知ることになる。敵軍同士の距離がそれほど無いと判断したフィルナは、まともに各個撃破は難しいと考えていた。そうなると、戦力差のある敵に対して、有効な戦略はそれほど多くはなかった。ただ、竜人族や巨人族の武力を頼りに、力押しで戦う愚行を犯すほど、フィルナは馬鹿ではない。


「アリューゼの部隊は、中央の山を東から北上、グルガナ、ミュジ、ラルタの三国の軍を引きつけてくれ、これは積極的な戦闘をする必要はない。アズキ、ガゼン兄弟、クリシュナ、そして本隊は西側から北上する。中央の山の西側まで行ったら、クリシュナの部隊はそのまま北上、残りの部隊は西へと進行して、敵軍で一番数の少ないアドチア軍を攻撃してくれ」


フィルナの立てた作戦を、みんなに俺が伝える。これを聞いてクリシュナが質問する。

「俺の部隊は北上してどうするんだ」

クリシュナの質問に、裕太がフィルナを見ると、彼女が説明を続けた。

「北上すれば、ルドヒキ軍とアリューゼの引きつけている軍のどれかが攻撃してくると思います。その攻撃を凌いでください」

「なるほど、簡単な任務だ」

2,000の兵で、二国の軍の攻撃を凌ぐのが簡単と言えるのは、強がりではなかった。


「基本的に、数の少ない軍から順番に叩いていきます。標的となる軍、以外の敵とは戦う振りをするだけで良いです」


これは変則的な各個撃破戦術であった。敵、全軍と戦闘しているように見せかけて、実は本当の戦闘を行っているのは標的の軍のみ、それ以外の戦いは、大きな陽動に過ぎないというものであった。


フィルナの作戦通りに、アースレイン軍は動き始めた。まず、中央の山を東周りに、アリューゼの騎兵隊が北上を始める。機動力のあるアリューゼ部隊は、10分ほどで、ミュジ軍とラルタ軍を視界に捉える。敵ももちろんアリューゼ部隊に気がつき、戦闘態勢を取っている。


ミュジ軍は兵数、8,000。将軍はクフールという左ほほに大きな傷のある男であった。クフールは勇猛果敢な猛将で、すぐにアリューゼに対して突撃命令を出す。まっすぐにアリューゼ部隊に向かって動き出すが、騎兵や歩兵の混成隊のミュジ軍は足並みが揃ってなかった。騎兵隊だけが突出してアリューゼ部隊に迫ってくる。それを見たアリューゼは、敵の騎兵隊にカウンターで強烈な一撃をお見舞いする。敵の騎兵隊はその攻撃によって、総崩れとなり、突撃が停止した。アリューゼ部隊は、攻撃するのはそこで止め、すぐに敵軍を避けるように動き始めた。


騎兵隊の強みはその機動力である。停止して戦闘を継続すれば、その強みを失ってしまう。なるべくその場に留まらずに動き続けるのが騎兵隊の性能を保つ秘訣であった。アリューゼはそれを熟知している。さらに今回のアリューゼ部隊の目的は陽動である、その場を死守する必要は全くなかった。


ラルタ軍は兵数、6,000。将軍はメルビムという老将軍で、歴戦の強者であった。メルビムは、友軍であるミュジ軍の動きを見て、アリューゼ部隊の後方に回り込むように軍を動かす。そのまま放置すれば、アリューゼはミュジ軍とラルタ軍に挟まれ、窮地に陥る。アリューゼはすぐに方向転換して、包囲されないように部隊を動かした。


「アースレインは腰抜けか! なぜまともに戦おうとせぬ!」

そう叫ぶのはミュジ軍のクフール将軍であった。アリューゼ部隊は2000、ミュジ軍は8,000、ラルタ軍は6,000である。戦力差が7倍の相手にまともに戦えとは無茶な話であった。


メルビム将軍は、アリューゼの動きと、その兵数の少なさを見て、これが陽動であることを気づいた。すぐに部隊長を呼んで、軍を三つに分けるように指示を出す。一塊で追い回しても、足の早い敵軍に追いつくことなど不可能である。なので少しずつ包囲していき、敵を追い詰めるつもりであった。










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