第48話 チルドア攻防
北上していったクリシュナ部隊は、フィルナの言う通りに、ルドヒキ軍と衝突していた。クリシュナ部隊の兵数は2,000、それに対して、ルドヒキ軍は12,000と、6倍の兵数であった。まともに戦えばクリシュナ部隊は苦戦を強いられそうであったが、アースレイン軍、最強の部隊は6倍の敵に対して、一歩も引くことはなかった。
前衛の巨人族隊が敵の攻撃を一手に引き受け、後方の部隊が、弓や魔法で攻撃を加える。地味であったが強力な陣形で、敵を討ち減らしていく。巨人族を掻い潜り、内部へ突入してきた敵は、竜人族の圧倒的な戦闘力で、瞬殺されていった。まさに動く要塞とかしたクリシュナ部隊は難攻不落に見えた。
ルドヒキ軍の将軍はマックラスという名の男で、知勇に長けた名将であった。戦況を見た、マックラスは、クリシュナ部隊を見て、その戦闘力を尋常ではないと判断していた。並の将軍であれば、これだけの戦力差である。油断と怠慢により自滅する状況において、この名将はそれを見抜いていた。
「全軍、一度引け」
マックラス将軍の命令で、ルドヒキ軍は攻撃をやめ、後退を始める。クリシュナはそれを見て、その場で待機するように命令した。クリシュナも、自らの使命を理解しており、追撃の必要性がないことをわかっていた。
ルドヒキ軍とクリシュナ軍は一定の距離を置いて、お互いを牽制し合う。クリシュナは時を稼ぐのが目的であり、マックラスはその時を待っていた。
ミュジ軍とラルタ軍がアリューゼに振り回されているこの戦場に、大きな軍勢が姿を現した。それはグルガナ軍であった。グルガナの大将軍はジュスランという名の、青い髪の若い男であった。グルガナ歴代最強の呼び声のある若い大将軍は、近年のすべての戦いにおいて、大勝利を収めている、国の英雄であった。
すぐにアリューゼの意図を読んだ、ジュスランは、2万の軍を四つに分散した。そして広い範囲でアリューゼの部隊を包囲していき、逃げ道を塞いで行った。
アリューゼにとっては、まさに八方塞がりであった。もはや逃げ道がない。騎兵隊の馬も疲れが見えていて、これ以上、逃げ回るのは無理のようであった。しかし、アリューゼ部隊が、このような状況になるのを、アースレインの軍師は読んでいた。アリューゼは、フィルナの助言通りに行動する。部隊を蜂矢の陣に隊列させると、こう命令を出した。
「南方の敵部隊に突撃する!」
南方に位置する敵の部隊は、ラルタの一軍であった。逃げ惑っていた敵が、いきなり突撃してきて、防御の体制をとるのが完全に遅れた。騎兵の突撃力に、多数の兵がなぎ倒されていく。アリューゼ部隊は、そのまま敵部隊を貫いて、南側へと逃走した。
ジュスランはそれを見て、ミュジ軍とラルタ軍に、伝令を送った。ミュジ軍にあの敵部隊の追撃を依頼して、ラルタ軍には、グルガナ軍とともに逆側へと進軍することを依頼した。それはアリューゼ部隊が完全な囮であり、本隊はその逆から侵攻しているのを完全に読んでいたからである。先ほどの敵軍だけならミュジ軍だけで十分戦える。なので追撃するのはミュジ軍だけでよかった。
アリューゼは、敵軍を突破すると、部隊を停止させた。それは馬を休める為と、追撃してくる敵を待つ為であった。
「やはり追ってくるのは一国のみか・・」
そう呟く騎士将軍に、副官のガイエルがこう話す。
「それにしても軍師フィルナはすごいお方ですね、ここまで状況を読んでいるとは・・・」
「そうだな・・あのお方には未来が見えてるのかもしれないな」
アリューゼはそう言いながら、迫り来るミュジ軍を見て、再び部隊に移動を命じた。
ミュジ軍のクフール将軍は、あれだけ逃げ惑っていた敵軍が、停止するのを見て、観念して戦うかと笑った。
「ははははっ、やっとまともに戦ってくれるのかアースレインよ。逃げることしかできない木偶の坊かと思ったぞ」
アリューゼは、中央の山の南側で、部隊を停止させていた。ミュジ軍と対峙すると、戦闘態勢に入っていた。ミュジ軍はアリューゼ部隊の4倍の兵力である、まともに戦っては苦戦すると思われた。
クフール将軍は、突撃を命令する。しかし、その瞬間、ミュジ軍の後方から、敵軍が現れた。その敵軍はそのまま、ミュジ軍に攻撃を開始した。それは完全な奇襲攻撃であった。アリューゼの部隊に気を取られていたミュジ軍は、後方の敵に全く対応できずに、陣形が崩されていく。その崩された陣形に追い討ちをかけるように、目の前にいた騎兵隊からの突撃攻撃を受ける。その突撃の破壊力は凄まじく、一撃でミュジ軍は致命的な崩壊を招いた。
ミュジ軍を後方から攻撃したのは、アズキ、ガゼン兄弟、エイメルのアースレインの主軸部隊であった。これは作戦通りの行動で、アドチア軍を破った裕太たちの次の目標は、アリューゼを追ってくる敵軍と決まっていた。
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