第36話 智の鳳凰
深くフードをかぶり、見た目では、性別もわからない、風貌の者が、大量の書物のある部屋を歩いていた。一冊の本を手に取ると、パラパラと中身を確認して、それを本棚へと戻す。そのような行動を、何度かしていると、身長が1メートルほどしかない、小さき者が、声をかけてきた。
「フィルナ様。フィルナ様が予想していた通りに、辺境大連合が設立したみたいですよ。さすがフィルナ様ですよね、それを1年以上前に予想してたんだから」
フィルナと呼ばれたその者は、本をパラパラと読みながら、小さき者にこう答える。
「歴史の流れとは、人の思いの流れだよ。人の思いや、考えを分析していけば、未来の歴史も少しは見えてくるものさ」
小さき者は、なぜか誇らしく、フィルナと呼ばれたその者に、さらに未来を問いかける。
「それでは、辺境大連合は、この後、どうなるんですか、やっぱり、辺境を統一するのですか」
フィルナは、本棚から一冊の本と取り出すと、それを脇に抱え、部屋の隅にある、テーブルへと移動する。その移動途中、歩きながらその問いに答えた。
「残念ながら、それは無理だね。辺境大連合ではジュルディア帝国には勝てない」
「しかし、フィルナ様。この間、辺境大連合は、辺境最大の勢力になるって言ってたじゃないですか」
「最大であって、最強ではないよ。辺境大連合には、大きな二つの力が欠けている」
「二つの力・・それはなんですか」
「智と武だよ。あるのは数の優位だけだ。全てが同じものどうしの戦いなら、数の優位は絶対だけど、ジュルディアのドラゴンを倒す武も、それを補助する智恵もないのに、たとえ大群で攻めたとしても、勝てる見込みはないよ」
「なるほど・・」
「そんなことよりブルッチ、今日のお勤めは終わってるのかい、まだ、水瓶に水が入ってないようだけど」
「あ・・そうでした。すぐに水を汲んできます」
ブルッチと呼ばれた小さき者は、そう言って外へと飛び出していった。
フィルナはそれを見送ると、深くかぶったフードをあげてその顔を見せる。驚くほどの美形である。少し尖った耳を見ると、エルフの血を引いているのがわかる。しかし、純粋なエルフとは違い、肌の色が少し濃く、耳の大きさも、人間に近いことから、人間とエルフの混血ではないかと思われた。
フィルナには夢があった。それは、理想郷の設立である。すべての種族が一つの国で、平等な生活を送れる国。残念なことに、今現在、この大陸にそんな国は存在しない。
「僕はエルフにもなれない・・人間でもいられない・・」
それは全てにおいて中性的な、彼の悲痛な呟きであった。
◇
「智の鳳凰フィルナ・・誰それ」
クリシュナが出した名に、裕太が質問する。
「俺の知る限り、最も智識と智略に長けた存在だ。今のアースレインに足りないのは、強力な武を何倍にも効果的に使うことができる、智の存在だと思うが、その役割としては最適人の人材だと思う」
辺境大連合に対して、その対抗準備の話し合いで、クリシュナが提案してきたのは、軍師の登用であった。本格的な戦略、戦術を立案できる人材は貴重で、どの国でも重宝されている。
「それで実際どれくらい有能なの?」
「昔、リジューダという小さな国があったんだが、その国の軍師を、とある理由があって、フィルナは一時的に引き受けた。その当時、リジューダは周りの多くの国から侵略されていたのだが、あらゆる策略と、戦術を駆使して、すべての敵を退けたと聞く」
「それほどの人物なら、どこかの国に仕官してたりしないの」
「フィルナは少し人間不信なところがあるようだ。いくつもの国から誘いがあったようだが、すべて断っている」
「それじゃ、うちに来てもらおうよ。今、どこに住んでるかわかる?」
「エディス山の山奥に隠居してると聞いているが、詳しくはわからない」
「なるほど。そのなんたら山に実際行って、探すしかないみたいだな」
エディス山は馬で三日くらいの場所にあるようだ。俺は自分でそのフィルナを尋ねることにしたんだけど、家臣の登用で、そんな遠くに、王が直接出向くなどありえないと、ゼダーダンは納得してないようだ。とりあえず護衛で、リリスとアズキ、そしてアリューゼが同行することで、無理やり納得させた。
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