第37話 漆黒の庭園

俺とリリス、そしてアリューゼとアズキ、なぜかラスキーまで付いてきてしまったんだけど、五人は、馬を走らせ、エディス山へ向かっていた。途中、初日と二日目までは、宿泊する街があり、そこに宿泊できたのだけど、エディス山の近くまで来ると、人の住んでいる町もないような田舎で、このまま村もなければ、野宿になりそうであった。


「だいぶ暗くなりましたね。付近に村もないようですので、今日はこのあたりで野営いたしましょうか」


アリューゼがそう提案してきた。馬も疲れてきていたので、水場がある、湖の近くでキャンプをすることにした。


宿泊ができないことを想定して、多少の食料は持ってきていたが、アズキが、任せろっと言って、ラスキーを連れて、何やら獲物を捕りに森へと入っていった。


アリューゼは火を起こして、野営の準備をする。俺は焚き火用に落ちている枝を集めていた。すると、キョロキョロと周りを見ていたリリスが、何やら警戒の声を上げる。

「エイメル・・・何か周りに気配がするみたいじゃぞ」


リリスがそう言うと、アリューゼも何かに気がついたのか、剣を手にして周りを警戒する。確かに意識を集中してみると、複数の気配を周りに感じる。その気配は少なくとも、友好的な感じではなかった。


「来ますよ・・エイメル様、気をつけて下さい」


そうアリューゼが言うと、無数の黒い影が、一斉に俺たちに襲いかかってきた。薄暗い時に、黒ずくめのその姿は、闇に溶け込み、同化していた。まさに暗殺に適していると言える。


襲撃者は、一人一人が相当な手練れだと思われるが、相手が悪かった。リリスは軽く手を横に振る。するとその軌道上に、光の帯がいくつも現れて、狙ったように、襲撃者を貫いていく。


アリューゼに斬りかかった三人の襲撃者は、彼女の卓越した剣技により、一刀両断にされ、一瞬で地面にひれ伏す。


裕太には、五人の襲撃者が斬りかかってきたが、これも軽く剣を降り、次々と斬り伏せた。


襲撃者は、全部で五十人ほどいたが、ものの数分で全て倒される。そのほとんどがリリスの攻撃によるもので、UR+のレアリティのその性能を垣間見せる。


「そういえば、アズキたちは大丈夫かな・・・」


そう俺が心配していると、平気な顔をしたアズキとラスキーが顔を見せた。

「おう、エイメル。無事か」


「アズキ、ラスキー、襲撃者は大丈夫だった?」

「人が狩りをしてるのを邪魔しやがって・・とりあえず、腹が立ったんで、全員ぶちのめしといたよ」


さすがにこの程度の襲撃者では、アズキに傷をつけるのも無理であろう。


アリューゼが、襲撃者の一人を生きたまま捉えていた。そいつから何者か問いただすことになった。


「それで、お前たちは何者だ・・」

アリューゼがそう聞いても、その者は、何も返事をしない。やはり暗殺者として訓練されてるんだろう、拘束されても、そう簡単に情報を明かしてはくれない。だが、それを見ていたリリスが、その襲撃者に近づき、手を妖しくくねらせ、その襲撃者の顔をそっと撫でる。するとその者の目の色が変わる。


「お前は誰じゃ? どうして私たちを襲ったのじゃ?」

リリスの言葉に、機械的で感情の無い言葉で答える。

「俺たちはアルカのダークエルフだ。ここは人間の来る場所では無い。エルフの聖地に入った人間は殺す決まりだ」


それを聞いたアリューゼが、襲撃者のマスクを剥ぎ取る。そこには浅黒く、尖った耳の美しい顔が出てきた。ゲームとかのイメージそのままのダークエルフの姿であった。


「アルカって確かエルフの国家の名前だよな」

知識の乏しいアズキが珍しく、その少ない情報を披露する。

「そうです。アルカはハイ・エルフを中心として、エルフ、ダークエルフ、アースエルフ、アクアエルフの集合体で、国家と呼べる組織ですけど、正確には自らの自治を守る為の共存共栄の集団にすぎないです」


さすがに知識も豊富なアリューゼは、細かい説明をしてくれる、それがなぜか気に入らないのか、アズキがむすっとふてくされる。

「私だってそれくらい言えたんだぜ・・」


そんなアズキの主張を無視して、アリューゼが話を進める。

「この辺はアルカの勢力圏内だったんですね。このまま放置してると、また襲われる危険があると思いますけど、どうしますか」


アリューゼの意見に、考えた俺は、拘束されているダークエルフに質問する。

「お前たちの住処はこの辺りにあるのか?」


それに機械的に答えるダークエルフ。

「この辺りにある。すぐ近くだ」


それを聞いた俺は、ならばと言うことで、話し合いに行くことにした。しかし、襲われたと言っても、その仲間を殺された連中が、まともに話をしてくれるのかは少し心配ではあった。だけど、辺境統一を目指している俺にとっては、エルフみたいな他種族との交流もまた、重要な課題であるのもまた事実である。


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