第32話 迷える巨人

その日の業務も終わり、ロビーで寛いでいると、アースレイン王国の領内に、ケイネン法国から大群が侵攻してきたと報告が入ってきた。どこの国もなぜこうすぐに侵攻してくるのだ、少しは休ませて欲しいものである。


「それで敵の規模はどれくらい」


ゼダーダンは少し顔をしかめてそれに答えた。

「はい。四千ほどなのですが・・ただ・・今回はその・・」

ゼダーダンにしては、少し歯切れの悪い物言いである。


「どうした? 何かあるのか」

「今回の敵には厄介な種族が編成されていまして・・」

「厄介な種族とは」

「・・・巨人族です」


巨人族・・聞いて名の通りなのだろう。おそらく巨体な種族ななのが予想できる。

「巨人族とは、確かに厄介だな。高くジャンプしないと、首に剣が届かん」

横で話を聞いていたアズキがそう言うと、同意するようにアリューゼも意見を言った。

「アズキの言う通り、あの巨体は戦いにくい相手です。その巨体から繰り出す突進力も驚異で、まともにぶつかっては、あまりに不利かもしれないです」


一流の将軍である二人がそう言うのなら、おそらくそうなのであろう。今回の相手は、今までの敵とは少し違うようだ。


「だが、少しおかしい話だな。巨人族が人間の戦争に加担するとは・・・平和を望む、かの種族とは思えぬ」

そう言ったのは、クリシュナである。竜人族は、人間以外の種族と交流が深いそうで、巨人族とも、ある程度の繋がりがあった。


「だとすると、何か事情があるんじゃないか。もしかしたらその辺をつけるかもしれない、クリシュナ、悪いけど調べてくれるか」

「了解した。ファシーたちに探りを入れさそう」


ケイネン法国が攻めてきた時の、アースレインの総兵力は五千を超えていた。巨人族の力を考えれば、四千の兵数でも勝てるとの算段だとは思うのだが、こちらにも竜人族という強力な味方がいる。巨人族と戦うことになっても、負けるつもりはなかった。



ケイネン軍の本陣、そこに太い鎖で繋がれた、3メートルはある大きく、小さな子供が、多数の兵に囲まれて泣いていた。

「体がでけーから泣き声もでけーな。うるせーから泣き止めよガキ!」


見張りの兵にそう怒鳴られ、子供は、さらに大きな声で泣く。この泣いている子は、巨人族の長の子で、名をミュルミュといった。人の年齢ではまだ5歳の幼児で、このような状態に心の底から恐怖を感じている。


「薬で眠らせますか」

泣き叫ぶ巨人の子を見て、家臣の一人が、ファノン法王にそう提案する。

「放っておけ、すぐに疲れて眠るだろ。それよりアースレインの動きはどうなっている」


「はっ、どうやらすでに、シュタット城から軍が出撃したようです」

「で、その数は」

「少なくとも四千はいるとの情報です」

「思ったより少ないな、これでは我が軍が圧勝するぞ」


ファノン法王のこの発言は、自軍の最前線に展開する巨人族の力を頼りにしているからこそ言える言葉であった。


旧ババナ王国領の、グラ草原で、アースレイン軍とケイネン軍は衝突した。ケイネン軍の最前列には三百の巨人族の兵が、巨大な斧や剣を持って、戦いの合図を待っていた。

「皆、すまぬ・・我が息子の為に、このような戦いに巻き込んでしまって・・」

巨人族の長が、すまなそうに、他の巨人族の兵にそう話しかける。


「長よ。ミュルミュは我らにとっても家族のようなもの・・気にすることはない」

そう言ったのは、巨人族、最強の兵士である、ジャルジャであった。


アースレイン軍は、変則的な陣形を取っていた。前列に数百の騎兵の別働隊を配置すると、そこから大きく離れて後方に、本隊が待機している。その距離が離れすぎているので、もはや陣形と呼べるか微妙な感じである。


「なんだアースレインのあの陣形は、前衛の騎馬隊は捨て駒か?」

ケイネンの隊長であるオズフは思わずそう言った。アースレインはそれほど異常な陣形で、ケイネンは攻撃を開始するの戸惑っていた。そんな硬直した状態はしばらく続いたが、ケイネンがしびれを切らして、巨人族の部隊を突撃させる。


「巨人族、目の前の敵、騎兵隊を殲滅しろ!」

うおおおおっ・・・といった巨人族の雄叫びが響き、地響きを上げて、巨人族の兵士たちは、アースレインの前衛めがけて突撃を開始した。



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