第29話 贈り物

すごい勢いで国が大きくなったので、主城の引っ越しもできずに、まだシュタット城をその主城として使っていた。大きさだけだと、旧ロントのジュベェレズ城の方が遥かに大きいので、そこを主城にした方がいいんだけど、業務処理も追いつかない。


連日の連戦と、次々と増える業務に追われていた。それもそうだ、このひと月ほどで、アースレインの国土は、百倍ほどに大きくなってしまった。急激な成長は、その内政管理に急激に負担をかける。内政に興味がない裕太なので、その負担は、宰相のゼダーダンと、財務大臣のリュジャナに、のしかかっていた。


「エイメル! あなた、いくらなんでも急激に国を大きくしすぎです。監督官の精査も追いつきませんわ」


そう言われた裕太であったが、最近の国力アップは、自分の意思だけでそうなってはいないので、彼自身も戸惑っているくらいであった。

「ごめん、リュジャナ。でも・・敵が攻めてきて、それの相手をしていたらこうなったわけで・・俺が全部悪いわけじゃ・・・」

「言い訳は良いです。せめて、吸収した国の人材をもっと発掘して欲しいですわ。本当に人手が足りなくて困ります」


軍事に関しての人材確保は、正直、順調といって良いと思う。しかし、内政官の人材確保は遅れていた。


「そうだ、ゼダーダンとリュジャナに、任命権を与えるから、どんどん人手を登用してよ」

「・・・・まあ、それしかありませんか・・」


嫌々ではあるけど、その案を了承してくれる。


そんな事務処理の話も終わり、俺は城内にある、浴場へと向かった。1日の疲れを癒すのはこれに限る。俺は一人、大きな風呂に身を沈め、ちょうど良い湯加減に、体の力を抜いて、身を委ねていた。


そんな、完全に油断している裕太の元に、二つの影が近づいていた・・・


「ヒューちゃん・・こんなこと・・良くないと思うよ・・」

「そうね、ファーちゃん。でもエイメル様も男の人だから、きっと嫌いじゃ無いと思うの。私たちでエイメル様を誘惑してモノにするんだよ」

「ヒューちゃん・・なんか下品だよその言い方」


二人が、裕太が寛いでいる風呂に忍び込もうとしているその時、もう一つ、別の影が、裕太の元へと忍び寄っていた。その者は、かなりの手練れのようで、諜報能力に長けているファシーとヒュレルが、その接近に気がつかなかった。


双子がその者に気がついたのは、裕太のすぐ後ろに迫った時だった。


「ヒューちゃん!」

「そうね・・ファーちゃん敵ですね」


それと同時に、裕太もその存在に気がついた。風呂の中にいる時に襲われると不利である。すぐに風呂から上がった。


侵入者に、最初に斬りかかったのはヒュレルであった、素早い剣撃が、黒いアサシンスタイルの侵入者に襲いかかった。だが、その攻撃は、侵入者の持っていた短刀によって簡単に弾き返される。次に放たれたファシーの攻撃も、読んでいたかのように簡単に避けられた。


「こいつ・・強いです・・」

「そうね・・でも・・負けません!」


双子と侵入者の戦いは、熾烈を極めた。剣を交える3人の間には、剣と剣がぶつかる音と、激しい火花が散り、それは地面を激しく動くねずみ花火のように、常に移動していた。


だが、ここで裕太が何かに気がついた。

「あれ・・おかしいな・・」


それは侵入者に、ファシーとヒュレルを攻撃する意思が感じられないことであった。ただの侵入者であれば、それを阻止する相手に、遠慮など不要のはず・・そう思った裕太はその戦いを止めた。


「ファー、ヒュー、そこまでだ、戦いを止めて」


それを聞いた二人は、侵入者から少し距離ととって、攻撃を停止した。侵入者も追撃などはせずに、その場で止まる。


「君はどこの誰だ? 俺に何か用があるのかな」

侵入者にそう声をかけると、ゆっくりと歩いて近づいてきた。そして跪くと、こう名乗った。

「私はアルフレッカ法皇国、法皇女サビューネ様に仕える、リヒタムともうします。サビューネ様の命にて、アースレイン王国、エイメル様に贈り物を届けに参りました」


あ・・忘れてた。そういえばもう一ヶ月くらいたつのか・・多分これは夢子からの救援物資だな。

「そうか・・それはご苦労であった。だけど、なぜ、そんな不審な侵入をしてくるんだ? 普通に尋ねてくればいいのに」

「はい・・習性と言いますか・・密命と聞いていましたし・・」

「うむ・・まあ、それはいいけどね・・」


「それではこちらをお納め下さい」

そう言って袋を渡された。何やら仰々しい紋章が刻まれた豪華そうな袋で、中を見るとぎっしりと、見たことのない輝きを放つ、大きな硬貨が詰まっていた。


これがオリハルコン硬貨か・・初めて見たよ。

「ありがとう。サビューネによろしく伝えてくれ」

「はい。それでは失礼します」


そう言うと、手際よくその場を去って行った。


リヒタムとのやり取りが終わると、双子が俺に近づいてくる。

「エイメル様、さっきのは誰ですか?」

「そうね。かなりの手練れでしたけど・・」


「ああ、ちょっと知り合いの国の使いだよ」


そう言うと、双子の顔がどんどん真っ赤になっていった。もじもじと目を隠して恥ずかしがっている。あ、そうか、俺、今裸だわ。


すぐに風呂に戻って、を隠した。そこから照れ隠しで彼女たちにこう声をかけた。

「ヒューもファーも良かったら一緒に入るか、気持ちいいぞ」


それを聞いた双子は、すぐにお互いを見て頷くと、服をぱっぱと脱ぎ始める。そしてそっと風呂に入ってきた。今更冗談ですとも言えないので、俺は顔を真っ赤にして、二人の少女と入浴することになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る