第25話 東方の策略

不動乱然ふどうらんぜんは、豊富な資金で召喚した、自慢の魔物の軍団を眺めていた。10連ガチャを80回、さすがの大国でも、その経済基盤が揺らぐほどのオリハルコン硬貨を使用して手に入れた、強力な軍勢であった。特に、最大のアタリはレアリティURの二体であろう。


ティーロンの巨神、レアリティUR。絶大な防御力を持ち、あらゆる属性の攻撃を無効にする特殊能力を持つ。大地を揺らすアースクエイクは途轍もない破壊力を持っている。


インペリアル・ケルビム、レアリティUR。天を舞う殺戮の天使。強力な魔法攻撃を繰り出し、魔法障壁で敵の攻撃を防ぐ。


その他にも巨大ユニットが多く見られ、そんな異形なモンスターたちが、数万体も並んでいた。彼らは、主である不動の命令を待っていた。


しばらく戦争をするつもりはなかった不動であったが、さすがにこれほどの力を持ってしまうと、使いたくなるのが人の性である。隣国に、攻めやすそうな国も幾つかあるので、試しにこの軍団を送り込んでみようと考えた。


「エルノーン。出陣するぞ。準備しろ」

「はっ、して、どの規模の軍を用意いたしますか」

「この魔物の軍団と、第一軍団だけでいい」

「はっ、かしこまりました。すぐに準備いたします」


エルノーンは優秀な参謀である。第一軍団が、帝都防衛戦力の一つであり、常に臨戦態勢なのも考慮したとしても、数時間で出陣準備を整えるのは常人では不可能であろう。

「王よ。どこを攻めますか」


そう質問してくるエルノーンに、一番驚くであろう国の名前を挙げた。

「ザンカーリ帝国だ」


ザンカーリ帝国———東方では指折りの軍事大国。常時70万以上の兵を展開しており、紛う事なき大国であった。王の準備させた第一軍団の兵力は約12万・・数万の魔物の軍団がいるとはいえ、あまりにも兵力差があった。しかし、エルノーンはそれほど驚くこともなく、第一軍団の軍団長であるユイリスに攻略の指示をし始めた。


「驚かないのかエルノーン」

「もちろん驚きましたよ。ただ、驚いたところで、何ら攻略の役には立ちませぬ」


「そうか。では出陣だ。だが、今回は魔物の軍団のお披露目だ、深追いはしねーからそのつもりでいろ」


不動が、攻め入る隣国にザンカーリを選んだのには二つの理由があった。一つはクラスメイトの国では無いこと、もう一つは、程よく強い国であることである。魔物の軍団の力量を見るのに、弱すぎでは話にならない。



ザンカーリ帝国の皇帝はマティウスという、若い王であった。しかし、歴代の王たちと比べても、その技量は卓越していた。隣国のボルティロス帝国の不穏な動きにはすでに気がついていて、最近編成されている魔物の軍団に関しても情報を握っており、その動きに注意していた。そんな矢先に、ボルティロス軍が領内に侵攻してきたのである。


そう、ザンカーリは、ボルティロスの侵攻に対して、十分に軍の準備はしていた。通常の兵力に加え、新たに徴兵した戦力は十万。それと数多くの傭兵団を雇い入れ、その総数は二十万にも達していた。総兵数100万、ボルティロスが全軍で攻めてきても対応出来る兵力であった。


しかも、ザンカーリには隠し球の戦力が存在した。


「マティウス殿、私たちの言った通りになりましたな。必ず、ボルティロスは動くと思っていました」


マティウスの隣には、二人の高貴な人物がいた。その一人のその言葉に、マティウスは答える。

「はい。まさにローダ王とルフス王のおっしゃった通りです。貴重な情報、ありがとうございます。さらにこんな素晴らしい戦力をもお貸し頂きまして・・」


そう言う三人の前には、無数の異形の軍勢が控えていた。それはボルティロスに匹敵する魔物の軍団であった。


ローダ王は宮田信二みやたしんじという別の名を持っていた。ルフス王にも別の名があり、須賀直之すがなおゆきといった。


二人は、不動を恐れており、共同してなんとか彼を抑え込めないかと考えて、出した答えが、不動の国と、二人の国との間にある大国の存在であった。この国が不動に制圧されなければ、自分たちの国は安泰だと考えたのである。


「マティウス殿、オリハルコン硬貨を用意してもらえれば、まだまだ魔物の軍勢はお貸しできますので」

「金貨や、ミスリル硬貨ではダメなのですよね、なんとか集めておりますが、さすがに貴重な硬貨なので、時間がかかっています」


「まあ、今の兵力でも十分、ボルティロスに対抗できるでしょう。最悪は我が国も動きますのでご安心を」

「それは心強い」


こうして、三国による戦力が、自分を迎え撃とうとしていることなど知らずに、不動は軍を進めていた。この一戦が、東方全体を巻き込む大戦へと発展することを、この時は誰も予想だにしていなかった。

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