第26話 誤算

ボルティロス帝国と、ザンカーリ帝国が最初に戦いの火蓋が切って落とされたのは、ミュレーン山脈の麓、ザンカーリの支城がある、オルフナと呼ばれる地方であった。ボルティロスの軍勢が、ミュレーン山脈を越えると、そこは、三方を小高い丘に囲まれた、盆地だった。正面の丘に、ザンカーリの支城があるのは情報通りであるが、両脇の丘にも、新たに砦が作られていた。


「このまま正面の城を攻撃すれば、両脇の砦から攻撃を受けて、前線は、三方からの包囲攻撃を受けますね」

エルノーンは冷静に、現状を説明する。確かに地の利はこちらには無いように見える。このまま突撃させるのは愚の骨頂なのだが・・・


「軍を三つに分けるぞ。三軍でそれぞれ、正面の城、右砦、左砦を同時に攻める」

「強引ですね陛下」

「これが俺のやり方だ」


確かに不動は、転生前から強引で直線的なやり方を好み、あまり変化球は使わない人物であった。


しかし、そんな強引な戦い方でも、しっかりと戦術は考えているようであった。三つに分けたどの軍にも、耐久力の高い巨人系ユニットを前衛に据え置き、その後ろを、弓矢部隊、魔法部隊を編成する。飛行ユニットも多く揃っているので、それも各軍において、砦攻めの補助をさせるように配置した。


「よし、全軍突撃!」


基本的な不動の戦術は、そのほとんどが全軍突撃である。それでも、あまりいろいろ小細工をしない単純な戦術は、部下に浸透しやすく、破壊力のあるその攻撃を遺憾なく発揮していた。


大量の矢が降り注ぐ中、数体のジャイアントが、敵の砦の塀をつかむ。そのままぐっと力を入れて塀の一部をもぎ取った。そのまま、砦の塀を破壊していくかに思われたが、砦から、予想だにしない攻撃は発射された。


それは巨大な金属の矢であった。ザンカーリの皇帝、マティウスは、巨大なモンスターを相手にするのを想定して、対モンスター用の兵器を作らせていた。それを多くの砦に配置しており、この砦にも30基が配備されていた。


巨大な矢は、容赦なくジャイアントの体に突き刺さる。さすがに耐久力のあるジャイアントも、その矢が数本命中すると、その場に崩れ落ちていった。


だが、矢の攻撃を、ジャイアントが受けている間に、後方の弓矢部隊、魔法部隊が容赦なく攻撃を繰り出す。砦に矢と魔法の攻撃が降り注ぎ、砦を守る兵が次々と倒れていく。


そもそも、この戦いに参加しているザンカーリ帝国の兵力は、五万と、ボルティロスを大きく下回っていた。いくら対モンスター用の兵器があっても、突破されるのは時間の問題であった。


最初に、右の砦が落とされた。ジャイアントより耐久力があり、攻撃力も上であるサイクロプスの大群が、強引に防衛線を突破する。そのあと、なだれ込むように、砦の中に、強烈な素早さを持つ、ウェアウルフ部隊が突入した。巨大弓が破壊されると、砦に防衛能力はなくなり、完全に沈黙した。


その時には、左の砦にも、ボルティロスの軍勢が雪崩れ込んでいた。こちらは、ワイバーンの火力で城壁を破壊され、そこから、大量のトロールに突入された。そうなると、ザンカーリの兵には為す術がない。完全に制圧されていった。


中央の城も、完全に包囲され、正面の門には、周りのジャイアントやサイクロプスが、小さく見えるくらいの巨大なものが近づいていた。それはティーロンの巨神と呼ばれるレアリティURの強力ユニットであった。ティーロンの巨神は、門を一撃で粉砕する。粉砕された門から、無数の死馬騎士、デスナイトが突入する。凄まじい攻撃力で、城のザンカーリ兵を虐殺していく。


「ここは、もう少し楽に攻略できると思ったのだがな」

快勝と呼べる勝利に対しても、不動は満足していなかった。不動が不満に思っているのは、敵に対モンスター兵器が配備されていて、多くの大型ユニットを、初戦で失ってしまったことであろう。予想以上に被害・・それは不動にとって大誤算であった。


誤算は、ザンカーリのマティウスにもあった。もう少し、巨大弓が効果を発揮して、多くの敵をここで討ちとる予定であったのだが、それほど損害を与えられなかった。想像以上にボルティロスは強いと認めざるえない。





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