第24話 身から出た錆

すでにファシーとヒュレルは、ロント王国の主城に侵入していた。一緒に侵入した部下は30名。どれも竜人族の優秀な工作員であった。ファシーは、部下に武器庫の破壊と、通路に火を放つように命じる。


破壊工作は部下に任せ、ファシーとヒュレルは、二人で縛り付けられている子供たちを救出に向かった。


ファシーが柱の陰で、兵士の一人の首を掻き切る。ヒュレルは、それを見て声を上げようとした兵士の口を塞ぎ、鮮やかにその命を奪う。


城壁の上にいる兵は、皆、外にいる軍に気を取られていて、柱に縛り付けられている子供たちには、それほど意識がいっていなかった。槍を持って警備している兵が二人・・これを片付ければ、容易に救出できそうであった。


ファシーがクナイのような小さな刃物を素早く投げる。二人の兵士は、一撃で急所を貫かれ絶命する。二人の兵士が倒れて物音がたつのを、ヒュレルが地面すれすれで受け止めてそれを防いだ。


ファシーとヒュレルは素早く、柱の縄を切ると、子供たちを救出していく。二人が、子供たちを連れてその場を離れた瞬間、場内が騒がしくなり始めた。部下たちが、城内の破壊工作を開始したようである。


「どうした、場内が騒がしいぞ」

「はっ、城の幾つかの場所で、火の手が上がっていようで・・」

「なんだそれは、そんな火、早く消せ・・・」

ここでルジャ五世は、アリューゼの弟妹たちがいなくなっていることに気がついた。

「子供が居なくなってるではないか! 何がどうなっておる。兵も死んでいるではないか・・くっ・・アリューゼとアースレインの仕業か・・・忌々しい奴らめ・・・」


子供を連れて、城外へ出ようとするファシーとヒュレルに、破壊工作を終わった部下が合流する。

「最後に、東門を破壊して帰るよ」

「そうね。破壊すると、エイメル様が軍を突入してきますよ」


城内は、いくつも火の手が上がり大きな混乱に包まれていた。ファシーたちは容易に東門に到着する。門の周りに、竜人族の秘密兵器である、魔法爆弾をいくつも仕掛けた。ファシーが導火線に火をつけると、みんな身を隠す。10秒ほどで、魔法爆弾は強烈な閃光と、爆音を発して、爆発する。正面にからの攻撃には強い門も、内からの爆発には弱かったようで、バラバラに崩れ落ちていく。


裕太は、ファシーたちとの事前の打ち合わせ通りに、東門が破壊されたのを確認すると、全軍に突撃の命令を出した。


「なんだ今の音は!」

ルジャ五世がそう叫ぶと、兵の一人が走って報告に来る。

「大変です! 東門が何者かに破壊されました。しかもその東門に、アースレイン軍が殺到しております」

「なんだと! ま・・守れ守るのじゃ! 城に入れることは許さぬぞ!」


守れと命令されたが、兵士たちにそれを実行する力はなかった。破壊された東門から、次々とアースレイン軍は城内へと入っていく。


後方に下がっていたアリューゼも、その状況を見ていた。

「アースレインが攻撃を開始したみたいだな・・・」


ガイエルが悲しそうな表情のアリューゼに問う。

「アリューゼ様・・我々はどうしますか・・・」

アリューゼは少し迷ってから答える。

「我らはロントの軍だ・・あんな王でも守る義務がある・・すぐにアースレイン軍に攻撃を開始する。全軍、前進せよ!」


アリューゼは軍を動かした。しかし、裕太は、アリューゼの軍が、そう動くことを読んでいた。


「あの軍が動いたな、アズキ、倒さない程度に彼女の相手をしてくれるか」

「それは面倒いぞ、エイメル。あいつは手の抜ける相手じゃないし・・手加減が難しいぞ」

「そんな何長い時間じゃないよ。すぐに俺が王を討ってくるから」

「仕方ないな・・・わかったよ。早めにな」


そう言うと、アズキは、渋々500の兵を率いて、アリューゼの軍の相手に向かった。裕太は、残りの兵と共に、敵の城へと突入する。


すでに城内は混乱しており、まともな抵抗もなかった。バラバラに攻撃してくる敵兵を倒しながら、敵の王を探す。


「エイメル様、やっと見つけた」

「そうね。探したですよ」

任務を終えたファシーとヒュレルが、エイメルの前に現れる。


「ファー、ヒュー、敵の王はどこにいるかわかるか」

「さっきまで城壁にいたけど、今はどこかわからないです」

「そうね。隠れたんじゃないかな」


「だとすると面倒だな・・」

「私たちがその辺の敵に聞いてきます」

「そうね。ファーの得意なやつだね」


敵に聞くって・・何する気だこの双子は・・疑問には思ったが、お願いした。すると五分もしないで、敵の王の場所を、本当に聞き出してきた。


「この通路の先の隠し部屋にいるそうですよ」

「そうね。悲鳴をあげながら、あの兵が言ってたから本当だと思うよ」


やっぱり拷問したみたいだな・・まあ、それは置いといて、とりあえず、王を討つためにその場所へ急いだ。通路の先の突き当たりの壁、石垣の塀の一部に、隠し部屋の仕掛けがあった。それを動かすと、壁の一部が動き、通路が現れる。そこを進んでいくと、20畳くらいの部屋に出た。そこに、震えながら王が数人の兵に守られながら隠れていた。


「ロント王。ここまでだ。降伏するか、ここで斬られるか・・どちらか選べ」

部屋に入ると、裕太はそう声をかけた。ルジャ五世は、もちろんそんな話をまともに聞くわけもなく、兵に攻撃を命令する。

「あいつらを殺せ! 殺してしまえ」

「それが答えでいいな」

そう言うと、兵を次々と斬り伏せた。そして王の目の前に歩み寄ると、斬られたのを感じさせないような剣撃で、ルジャ五世の首を落とす。


ルジャ五世死す・・その情報は、戦場にすぐに広がる。城内の敵はすぐに抵抗をやめて降伏する。外でアズキと戦っていたアリューゼも、剣を収めて降伏した。



「なんと・・我が弟妹をお助けいただいてくれたのか・・」

この状況になり、アリューゼは半ば諦めていた弟妹が生きていることを知った。


「おそらく、君の身内じゃないかと思ってね、まあ、どんな理由でも、子供にあんなことをするのを見過ごしたりはできないけど」


裕太がそう言うと、アリューゼは、涙を流して礼を言う。そして剣を横に置くと、裕太に向かってこう宣言した。

「私はアリューゼ・フォルディンと申します。アースレイン王にまだ、我が身の従属を求める意思があるのでしたら、是非、その臣下に加えていただけるようにお願いします」


もちろん、裕太にそれを断る理由はない。笑顔でそれを了承した。







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