第23話 ロント王の横暴
アースレインに解放され、アリューゼは敗走する味方の兵をまとめていた。馬はかなりの数、殺されてしまったが、兵はそれほど被害が出ていなかった。確証はないが、あのエイメルというアースレイン王の考えで、多くの兵が殺されなかったように思える。
撤退するロント軍のすぐ後ろから、アースレイン軍が付いてきていた。あの王は、我らが城に戻るまでは攻撃はしないと約束してくれた。その約束は守られると、なぜかそう思えた。
敗軍の将として、国に戻れば責任を取られるだろう・・最悪、死罪となるかもしれない。そうなると弟妹たちはどうなるのか・・
だが、アリューゼの、そんな心配は無用であった。アリューゼが、ロントの主城に戻ると、門は固く閉ざされ、その中へと入ることができなかったからである。
「門を開けろ。アリューゼ・フォルディンが戻った」
アリューゼがそう呼びかけても、門は開かれることがなかった。代わりに、城壁の上に、人影が現れる。
「アリューゼ・・貴様よくもノコノコとこの城まで戻ってこれたな」
それはルジャ5世であった。怒りの表情のロント王は、さらにアリューゼに罵声を浴びせる。
「アースレインに母国を売り渡して、大将軍にでも取り立てると約束を取り付けたか? それともワシの首と交換で、爵位を約束されたか? 貴様もゴミのような父親と、同じではないか。父の罪を問わずに、貴様のような者には出来すぎた地位を与えてやったのに、恩を仇で返すとは・・・これを見るがいい。貴様の不義理に対するこれがワシの答えだ」
そう言って周りの兵士に合図すると、何かを城壁の上に運び込んできた。それは三本の柱で、その一本一本に、アリューゼの弟妹たちが縛り付けられていた。
アリューゼは、それを見て言葉を失う・・心臓が張り裂けそうに、異常な速さで動き始めた。すぐにその理由をルジャ五世に問いた。
「これはどう言うことですかロント王・・どうしてそのような仕打ちをするのですか・・・」
「馬鹿者! すぐ近くに、アースレイン軍が近づいているのは知っているのだぞ。貴様の軍は、そのアースレイン軍と戦おうともせずに、この城まで案内してくるとは・・貴様がアースレインに寝返ったのは明白ではないか!」
「それは、アースレイン王との約束で・・」
「言い訳は良い、全軍、謀反人、アリューゼの軍を皆殺しにしろ!」
その声と同時に、城壁の各所から、無数の矢が飛んでくる。仲間から攻撃を受けると思っていなかったアリューゼの軍は、その矢に次々倒れていく。天星騎士団の団長であるガイエルが、すぐにアリューゼを守るように兵たちに命令する。
「アリューゼ将軍をお守りしろ!」
それを聞いた周りの兵が、自分の身など顧みず、アリューゼを矢から守るために、盾を上に構えて近づいてくる。
アリューゼも、自分を慕う兵を無視することなどできない。すぐに防衛の指示を出した。
「全軍、盾を掲げて密集陣形! そのまま少しずつ後退しろ」
アリューゼの軍は、盾を上に掲げて、密集することで、雨のように降り注ぐ矢から身を守る。後ろにそのまま後退していき、矢の射程から脱出する。
アリューゼの軍が、味方である城から、攻撃を受けているのを見て、裕太は戸惑っていた。
「どうしたんだ・・なぜ、仲間を攻撃してるんだ?」
「多分、私たちがあの軍の後ろを付いてここまで来たから、裏切ったと思ったんじゃねえか」
アズキの話を聞いて、そうかもしれないと納得する。
「そうだったら、あの将軍に悪い事したな・・・」
「エイメル様。城壁に子供が縛り付けられてるよ」
「え? どこどこ」
「そうね。あの正面の門の上のとこですわね」
「うわ・・ヒューもファーもあんなのよく見えるね・・」
「私、目がいいから」
「そうね。私はもっといいから」
とても普通の人には見えないような距離である。やはり竜人族の身体能力は侮れない。
「どうもあの女将軍の身内が人質に取られてるみたいだな」
そうか、それじゃ話が早い。その人質を助ければいいんだな。
「ヒュー、ファー、君たちの部隊は、隠密が得意だったよね」
「そうだよ。なんか秘密の作戦とかの修行をお兄ちゃんによくさせられてたんだ」
「そうね。地獄の修行だったわね」
「それじゃ、あの、縛り付けられた人質を助けられるか?」
「お安い御用だよ。任せて」
「そうね。任せるのね」
ファシーとヒュレルに人質の救出と、城内を混乱させる工作をお願いする。それと同時に、城を攻撃することにした。
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