第18話 金の爪と銀の牙
お互いに見つめ合い、戦いの開始を待った。アズキが俺を応援する声をあげる。
「エイメル。負けんなよ」
そう。この戦いは負けるわけにはいかない。ただ・・勝ってもダメなんだよな・・それはクリシュナが考えているこの戦いの意図を読んでのことであった。
戦いを前に、金の髪の少女が、銀の髪の少女に話しかける。
「お兄ちゃんは殺す気で戦って良いって言ってたけど、あの人、どっかの国の王様でしょ。いいのかな」
「そうね。私たちが本気で殺そうとしたら、王様なんて瞬殺だからね」
「まあ、お兄ちゃんのことだから何か考えがあるんだろうけど」
「そうね。私たちは言われるままに殺りましょう」
そう言うと。愛らしい双子の少女の表情が変わる。それは戦いを前にした獣の目であった。
クリシュナが戦いの開始を合図する。その瞬間、双子の少女は、金と銀の光の閃光となり、裕太に襲いかかってきた。
「早い・・」
そう感じたその時には、二つの刃が裕太の体を切り裂こうと振り抜かれていた。双子の使っている得物は金の髪の方が小さな二本の短剣。銀の髪の方がレイピアのような細身の剣であった。どちらの攻撃も驚異的なスピードであり、並の剣士では反応もできないであろう。しかし、幸いなことに、裕太の戦闘能力は、神の加護によるチート級の力を持っている。いくら早くても反応できな攻撃ではなかった。
裕太は全ての攻撃を、剣で弾き返した。今の攻撃で殺す気満々であった双子の少女は、驚きと感嘆の声を漏らす。
「ヒューちゃん、あの王様、今の攻撃はじき返したよ」
「そうね、ファーちゃん。ただの王様じゃないみたいだね」
さて・・こっからどうするか・・倒さず・・勝つ方法・・難しいな・・裕太は悩んでいた。クリシュナのこの戦いの求める答えが、勝敗でないのは明白である。ただ俺の力を見たいだけなら、竜人族で一番の強者である、クリシュナ本人が戦えばいいだけだが、彼はそうしていない。
答えが出ないまま、双子の少女の第二波の攻撃が繰り出される。力任せに攻撃してきた初撃と違い、フェイントを織り交ぜた、この攻撃は、防ぐのが難しかった。それだけ、こちらの力を認めて、本気の攻撃をしてきたということであろう。
さすがの猛攻に、防ぐだけでは辛くなってきた。だけど攻撃はしてはいけない・・なぜか俺の本能がそう言っていた。双子の攻撃はどんどん激しさを増していき、俺は強烈な連携攻撃により、剣圧で吹き飛ばされる。
双子の少女は、一人ひとりはアズキの戦闘力には遥かに及ばないが、二人で戦った場合、その連携攻撃によって、驚異的な戦闘能力を発揮するようだ。
俺は、床に転がりながら、対策を考える。攻撃しないで勝つ方法・・ダメだ・・思いつかん。相手に負けを認めさせるか、戦闘を続行できなくすればいいんだろうけど・・・
だが、そんな俺の悩みなどお構いなく、双子の少女はさらに激しく攻撃を仕掛けてくる。猛攻はどんどん早く、激しくなり、さすがに防戦だけでは限界が近づいていた。
くっ・・こうなったらやけである。どうせ攻撃できないのなら剣などいらない。俺は不意に、剣を彼女たちの前に投げ捨てた。
さすがのその行動に、双子の少女は驚いて動きが止まる。その瞬間、俺の本能が体を動かした。素早く踏み込んで、呆然としている少女二人を・・ぎゅっと優しく抱きしめる。
おそらく、家族以外の異性に抱きしめられる経験などしたこと無いのだろう。二人は急激な緊張で体を強張らせて、顔を赤く染める。緊張で動けないのをいいことに、俺は抱きしめたまま、手を二人の頭に持って行き、優しく頭を撫で始めた。そうすると、双子の少女は、硬くなった体から力が抜けていき、そのままへなへなと武器をその手から離した。
「それまで。勝負あり、エイメルの勝ちだ」
クリシュナのその宣言に、我を取り戻した双子の少女が猛抗議をする。
「ええええ! そんな、まだ勝負は付いてないよ」
「そうね。そもそも戦ってる感じがしなかったよ」
「それでいいんだ。この戦いは勝敗は意味がないんだ。それをエイメルは理解していたみたいだな」
クリシュナは俺に見て、そう言う。それを見て、状況を理解できないアズキが、俺に聞いてくる。
「どうなってんだ、エイメル。何がどうなってお前の勝ちなんだ。私にはお前が、あの子たちに、ただ、スケベなことをしただけにしか見えなかったんだけど」
「スケベな事じゃなえよ!」
俺は顔を真っ赤にして抗議した。そんな意味がわかってない一同に、クリシュナが説明してくれる。
「まず、エイメルが、どんな理由があろうと、私の大事な妹を傷つければ、俺は決して許さないだろう。勝負を中止して、斬り伏せるつもりだった」
その言葉に、アズキが反応する。
「ずっこいな。お前がエイメルに、その子らと戦えって言ったんじゃん」
それにクリシュナが反論する。
「戦えとは言ったが、傷つけろなどとは言ってない」
「・・・やっぱ、ずっこい・・・」
クリシュナは話を続ける。
「そして我が妹たちに、負けるようでは、俺が従う器ではない・・エイメル。妹たちを攻撃せず。そして最後には勝利をつかむ策、よくたどり着いた。お前は我が従うべき器のようだ。これより竜人族は、アースレイン王国に従属しよう」
「ありがとう、クリシュナ。後悔はさせないよ」
それを聞いていた双子の少女たちが、おもむろに俺の両腕に抱きついてきた。そしてこう言ってくる。
「エイメル様、私はファシーよろしくね」
「そうね、私はヒュレルだよ。よろしく」
うむ・・いかん。なんか懐かれたようだ。双子の少女にじゃれつかれている、その光景を見ているアズキの目がなぜか怖い・・
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