第17話 竜人族

辺境には二十七の種族がいるとされている。その中でも戦闘に優れ、知識や文化レベルの高い竜人族は、他の種族から尊敬と、恐れを抱かれていた。唯一、竜人族の弱点とも言えるのは、その子孫繁栄能力の低さであろう。出生率は人間の30分の1ほどで、辺境に住む竜人族は一万人ほどであった。


裕太が訪れていたのは、竜人族の族長の住む集落で、そこには二千人程の竜人族が暮らしていた。ほとんどの竜人族がそうなように、この集落の竜人族も、人間を良くは思っていなかった。


「何しに来た人間」


裕太は、竜人族をその時、始めてみた。その姿はほとんど人間と変わらず、頭部に二つの小さなコブがあるのが特徴くらいであった。


「族長に会いたい。俺はアースレイン王国の国王、エイメル・アースレインだ」

「族長は人間とは会わない、帰れ」


「それは族長の命令か? お前単独の判断だったらそれは間違いだ。すぐに族長の意思を聞きに行け」

俺が堂々とそう言うと、竜人族の衛兵は、少しだけ躊躇する。しかし、改めてこちらに話を返す。

「族長が命令しなくても当然のことだ。人間と我らは相見えることはない」

「だからそれはお前の意見か・・」

俺は静かにそう伝える。それは怒気を含めた気の放出であった。それがどういったものか、その衛兵も体全体に感じ取る。


「ぐっ・・・ま・・待っていろ、長老に確認する。だが、長老が会わないと言えば、それまでだぞ」

「わかった」


そう言って衛兵は、集落の奥へと向かった。そのやり取りを見ていて、アズキが俺に話しかけてきた。竜人族の村には、俺とアズキの二人だけできていた。必要以上に相手を刺激しない考慮である。

「エイメル。今、闘気を使ったな」

「ああ、そうだよ。埒があかなそうだからね」


「お前はそんな芸当もできるのか、前に私と戦った時は、手を抜いてたんじゃないのか」

「いや、そんな余裕はなかったよ」

「今度、マジ勝負しようぜ」

「え・・・嫌だよ」

「チェッ、ケチな奴だな」


そんな話をしていると、先ほどの衛兵が戻ってきた。

「長老がお会いになる。こっちへ来い」


とりあえずは会ってもらえるようである。俺とアズキは、その衛兵が案内するのについていく。ちょうど集落の中心に、大きな屋敷があった。そこが長老の家のようであった。


「ここだ。入れ」


和式の屋敷のような一階建ての建物で、引き戸のようなドアを開けて中にはいる。そこで待っていたのは、初老の老人であった。


「座れ、アースレイン王」

「失礼します」


俺はそう言って、座布団のような四角いものにあぐらをかいて座る。それを見た老人が眉を細める。周りの衛兵隊は、驚くような反応をした。アズキも、俺に習って、座布団にあぐらをかいて座った。


「それでワシに何の用じゃ」

「いえ、あなたに用はありません。俺が会いに来たのは、そこの御仁だ」

そう言って俺が見たのは、屈強な衛兵の一人であった。それを聞いた他の衛兵たちはざわざわとざわめきたつ。

「なぜ、俺が族長だとわかった」


老人が立ち上がり、その衛兵が老人のいた場所に座る。

「竜人族の習わしで、一番強いものが族長になると聞いてきた。さっきの老人より、あなたの方が遥かに力量が上に見えたので」


「ふっ、新しいアースレイン王は馬鹿ではないようだな。それなら本当に話を聞いてもいいかもしれん。要件を言え、アースレイン王」

「俺はエイメルだ、そう呼んでもらえるか竜人族の族長」

「はははっ。そうかエイメル。では俺のことはクリシュナと呼べ」

「クリシュナ、要件を言うぞ。俺は辺境を統一しようと思っている。竜人族にその力添えをおねがいしたい」


「ほほう。辺境の統一・・・そんなことしてどうするんだ」

「それは大陸制覇の足がかりにする為だ」

「大陸制覇!」


周りの誰もが驚きの声を上げる。それほど大陸制覇は途方もないことであった。

「辺境統一なら予想ができたが・・その上をいくか・・面白い。ではお前にその力量はあるのか、大陸を制覇する力量・・そして器として俺の上に立つ大きさがあるのか・・それを、今、示してみろ」


そう言ってクリシュナは立ち上がる。

「外に出るんだエイメル。そこでお前の器を測らせてもらう」


族長の家の前にある、広い広場のような場所へと案内される。そこには二人の女の子が立っていた。二人は双子のようで、顔がそっくりであった。ただ髪型が違うので、判別はできそうである。


「ファシーとヒュレルだ。二人は私の妹で、ここでは五本の指に入る使い手だ。この二人と戦ってもらう」


ショートカットで金髪がファシーで、銀髪でセミロングがヒュレルらしい。俺はその話を受けた。

「全力で戦わせてもらうよ」


俺がそう言うと、クリシュナは頷く。そのやり取りを聞いてて、アズキが私が戦うとうるさい。だけど、この戦いは多分、俺の力量を見る為のものだから、アズキに変わってもらうわけにはいかなかった。










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