第16話 三国同盟

エンビケ王は狼狽えていた。それは隣国である、アースレイン王国が、立て続けに戦いに勝利し、その領土を広げていたからである。エンビケの治めるババナ国も、アースレインに隣接しており、それはもはや他人事ではなかったのだ。


「どうすれば良いか・・・」


その問いに、腹心の部下であるイビルが助言する。

「今のうちに、アースレインは叩いておいた方が良いでしょう」

「そうじゃが、今やアースレインは、ドブールを吸収して、その力をつけている・・今の我が国では、負けてしまうかもしれん・・」

「それでは、クショウ国とアルドン国を巻き込んで、三国で攻めてはどうですか」

クショウ国もアルドン国もアースレインに隣接する国家である。どちらも、最近のアースレインの行動を良く思ってないと思われる。


エンビケ王は考え、そして決心する。


「そうじゃな・・それは良い考えかもしれん。すぐにクショウとアルドンに使者を送れ」


クショウ国の王も、アルドン国の王も、ババナ国の提案に乗り気であった。楽に領地を拡大できるのであれば、どの国も興味を示すであろう。


この話が出て、数日の間に、クショウ、アルドン、ババナの三国同盟が成立する。それはアースレイン王国を制圧するまでの短い同盟契約であり、弱い絆の協力関係であった。


すぐに軍を起こした三国は、同じタイミングでアースレインの領土に進行した。



裕太が、三国が進行してきた報告を受けたのは、シュタット城へ主城を移して、ようやく引っ越しも終わり、落ち着いたので、竜人族の集落へと向かおうとしていた矢先であった。


「クショウ、アルドン、ババナが同時に攻めて来ったって?」

「はっ、これはどうも偶然ではないかと思われます」


「とにかく迎え撃たないと、軍の準備をしてくれ、後、ゼダーダン、アズキとラスキー、それとリュジャナ、ガゼン兄弟を集めてくれ」


敵は三国である、劣勢であるのは間違いないので、みんなの意見が聞きたかった。緊急時の為に、すぐに全員が執務室に集まった。


「おそらく、ババナのエンビケ王の策略でしょう」


クショウやアルドン王の性格を考えると、そんな大胆な事をやる人物ではないようである。すれば野心家である、エンビケ王が主犯の可能性が高いそうだ。


「敵の戦力はどれくらいだ」

アズキの質問に、ゼダーダンが答える。

「どの国も500近い兵を動員しているようです。なので千五百近くはいるかと・・」


「さすがに多いな、前のように力技は通用しないかもよ」

そう発言するガゼン兄弟の兄、ダグサスであるが、どこかワクワクしているようである。


「敵軍の正確な位置を教えてちょうだい」

リュジャナが、そう聞いてきた。それに対して、物見兵を統括するゼダーダンが答える。


「クショウ軍は、ルメン川から西側、ここから5キロほど北の地点。アルドン軍はルメン川の東側、ここから8キロの場所に陣を構え、ババナ軍はアルドン軍よりさらに東側5キロ先に軍を展開しております」


これを聞いた俺とリュジャナの声がハモった。それは勝利を確信するものであった。千五百の敵と戦うのは厳しいが、500+500+500と戦うのなら十分勝算があった。三つの軍は、あまりにも離れすぎである。これでは連携も何もなく、各個撃破してくれと言っているようなものであった。


「まずはクショウ軍を討つぞ、この戦いは速さが重要になるから、敵を殲滅するのではなく、一気に大将を叩く」


すぐにアズキを中心とした軍の編成がされた。アズキとガゼン兄弟が中心となった突撃隊を編成して、その部隊で敵の大将を一気に取る。それを俺とラスキーがいる本隊が支援する形をとることにした。


なるべく接近を悟られず、クショウ軍に近づいた俺たちは、一気に攻撃を仕掛けた。クショウ軍の大将は、多数で攻められた俺たちは、絶対に籠城すると思っていたのか、攻撃を予測していなかったようである。完全に不意を突かれたクショウ軍は混乱して、まともな反撃も出来ずにいた。


「アズキ、あいつが大将だ!」

ダグサスに声をかけられたアズキは、馬で逃げようとするその大将を、走って追いかけ、後ろから斬り伏せた。


大将をやられたクショウ軍は崩壊、そのまま散り散りに敗走する。


ここで、クショウ軍が攻撃を受けたことを知ったアルドン軍が、救援に駆けつけてきた。タイミングの悪いことに、すでにクショウ軍は崩壊した後で、アルドン軍は、勝利で士気が上がりまくっているアースレイン軍と、一国で戦う羽目になった。特にエンジンのかかったアズキを止めることなど、並の軍勢では不可能であり、迫り来る、赤い戦女に恐怖を感じた。


すぐに劣勢を悟ったアルドン軍の大将は、ババナ軍と合流しようと、撤退を指示するが、その時すでに遅し、周りの兵を蹴散らしながら近づく、赤い鎧の鬼神がすぐ目の前に迫っていた。



「どうした。クショウやアルドンとは連絡は取れたのか?」

「それがすでにアースレインに敗北したとの報告もあり・・」

「なんじゃと! いくらなんでもそれはないじゃろ。アースレインの兵力など500以下じゃ、それがクショウ、アルドンの1000をそんな簡単に倒すなど考えられん。それは間違った報告じゃろ」


エンビケ王にとっては、クショウ、アルドンが個別で撃破されるなど想像にもしていなかった。なのでこんなに早く、二つの国が敗北しているのが理解できないのである。それが、エンビケ王の悲劇であった。二国の軍が負けたのをこの時点で知っていれば、敗走する選択もあったかもしれないが、ババナ軍は不幸にも、このまま進軍してしまった。そこには、クショウ軍とアルドン軍を打ち破ったアースレイン軍が、万全の態勢で待ち構えていたのである。


すぐに戦闘は開始された。この時点でも、エンビケ王は状況を理解していなかった。


「クショウ軍とアルドン軍はどうした? なぜアースレイン軍が目の前にいるのじゃ」


完全に指揮能力を失っているババナ軍は烏合の衆であった。守るべき王の存在を忘れて、兵は散り散りに逃げていく。


エンビケ王の周りに残った少数の兵は、必死に王を守ろうとするが、ガゼン兄弟二人の猛攻に、次々倒されていく。


エンビケ王は、すべての兵を倒され、放心状態でった。そこへダグサスの巨大な戦斧が振り下ろされた。



負けるはずがなかった三国は、ここに大敗北を喫した、それは三国の崩壊を意味していた。王を殺されたババナ国は、すぐにアースレインに全面降伏を勧告した。ババナ国も吸収され、兵も失ったクショウ国とアルドン国も、勝ち目がないのを悟り、王の追放と、全面的な降伏を申し入れた。


こうして、棚からぼた餅ではないけど、予想にしなかった領土拡大が実現した。裕太は、ゼダーダンとリュジャナに、三国のアースレインへの吸収処理を任せ、ガゼン兄弟に、軍の再編成を任せた。こういう事務処理はアズキには無理そうなので・・・


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