第13話 監督官

シュタット城に呼び出した、監督官がやってきた。とりあえず、彼らの面談をするのは、俺とリュジャナ、そしてゼダーダンである。面談と言ってもよほど酷そうな人材でもなければクビにする選択はないだろう。それくらいうちは人材不足である。


「新しき我王よ、お初にお目にかかります。私、ドーン区の監督官であります、メイデンと申します」

青の男は、口ひげを蓄えた、中年の紳士といった風貌で、頭は良さそうである。


「俺はドール区のライドだ。ふん。よくわからんが、ワシはお前を王などと認めたわけではないぞ」

それは言ってきたのは、一見武人のような男であった。大きな体に、短い藍色の髪の毛、着ているものが鎧であったら、将軍か何かと思うような偉丈夫であった。


「私はドーハ区のメルディです。あなたは私たちを品定めする為に呼んだのかしら? 良いですけど、選ぶのはこちらにも権利があると思いますわよ」

貴婦人という呼び名がふさわしい、若い女性であった。彼女は、妖艶な目で、俺の隅々を逃さず見ているようである。


三人とも揃ったので、俺は口を開いた。

「どうかな、単刀直入に聞くけど、俺の下で働く気ある?」


メルディはこう返答する。

「まあ、面白い言い方ですわね・・それはあなた次第ですとお答えしますわ」


「私はもちろん働きたいと考えています。どうか引き続き、ドーン区をお任せください」

メイデンは予想通りの答えをくれた。残るはライドだが・・


「ふん。くだらん。なぜそんなことを聞く? お前はこの国を占領したのだぞ。従うように命令すれば良いではないか。従うかどうかはわからんがな」


ライドはぶっきらぼうにそう答える。俺はそれに対して、すかした感じで簡潔に話しをした。

「無理に従わしても、良い仕事をするとは思えないからだよ」


「・・・ふっ、前の王とは随分と違うな。確かにそうかもしれん・・」

ライドは俺の言葉に何か納得したような表情をする。


このやりとりを見ていたメルディの新しい王に対する品定めは、その評価を、良とする答えを出していた。この王の元であれば、損はしないと評価していた。


「結論から言うと、俺は君たち三人に、今まで通り各区を収めて欲しいと思ってる。だけど、これからは経済や産業の指示を、ここにいるリュジャナと相談して、連携してやって欲しいんだ。どうも今までの書類を見ると、同じ国なのに、その辺の連携が全く取れてないようだから」


「まあ、そうですわね。この人たちとは考え方が随分違いますから」

メルディは自分と他の二人を一緒にしないでくれとばかりにそう話す。


「ふん。儲かればいいのではないのか」

ライドも自分の今までの仕事にプライドを持ってるのか、連携が取れていなかったことには悪びれるとこはない。


「王の仰せのままに」

一番素直なメイデンは、良い意味でも悪い意味でも、流される人物のようである。簡単に忠誠を見せてくれる。


「それでどうだろ、このまま監督官を引き受けてくれるかな」

俺が最後の意思を聞くと、少し考えてから三人は同じ返事をくれた。

「御意。あなたに従いましょう」


正直、人材不足なので、三人とも残ってもらえたのは助かる。


「そういえば、今更ですが、ルノー区はどうしますか、現状のままの監督官でよろしいですかね」

ゼダーダンが思い出したようにそう聞いてくる。


「問題ないんだよね?」

「はい。クホースと言う真面目な男で、特に問題がある人間ではありません」

「それじゃ、そのままお願いして」

「かしこまりました」


面談も終わり、落ち着いたところで、リュジャナが俺に話しをしてきた。

「エイメル。せっかくルノー、ドールと、ザルーフルからフェミニアの街道を独占してるんだから、途中で宿場町を作って、商人にそこでお金を落としてもらうようにしたらどうかな」


ザルーフルとフェミニアは、辺境では珍しい、活気のある大きな街で、その二つの街を行き来する街道が、ルノーとドールにわたって伸びている。

「さすがリュジャナ、いい案だよねそれ」

「何かあなたに褒められても嬉しくないわね」

「とにかく財務大臣として、すべて任せるよ」

「・・・まあ、いいけどね。街道の整備、宿場町の建設でお金かかるわよ」

「この城の宝物庫に、幾らかの蓄えがあるみたいだからそれを使っちゃおう」

「ある分だけ使おうとするのは昔と変わってないわね・・後で後悔しても知らないわよ」

「まあ、後は後で何とかなるって」


「それより、せっかくだからその、ザルーフルとフェミニアも欲しいよね」

俺が何となく言った一言に、ゼダーダンが反応する。


「フェミニアは、デイラン共和国の城下町。ザルーフルはケイネン法国の城下町です。どちらも今の我が国より大きな国ですね」

「ちなみに兵力は?」

「デイランは千前後でしょうか、ケイネンはデイランの三倍ほどの国力がございます」


「それじゃ、まずはデイランを奪って、そのあとにケイネンと戦えばいいよね」


ゼダーダンが真顔で問いただしてくる。

「本気ですか?」

「本気だよ」

即答する俺。それを聞いて、ゼダーダンはこう話を切り出した。

「それでは、アルグ森の竜人族の力を借りましょう」

「竜人族・・なんだいそれは」

「辺境最強の民達です。昔・・エイメル様のご先祖様は、その竜人族と友であったと聞いております。その時代は、その竜人族の力を借りて、今より遥か大きな国で、すごく繁栄していたと聞き及んでいます」


「だけど、今はこんな小さな国になっている・・何かその竜人族と、俺の先祖の間で、問題があったのかな」

「そうかもしれません・・そこまでは記録が残っていないのですが、これから先、エイメル様が、覇道を突き進むのであれば、彼らの力が不可欠ではないでしょうか」


「ゼダーダン。良い情報ありがとう。そうか・・竜人族か・・」


何とかその竜人族を味方につければ、より大きな国とも戦える。俺は予感のような何かを感じていた。







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