第12話 領土拡大

敵を撃破した俺たちは、すぐにドブール王国へと進軍を開始した。敵兵は一時的に全員拘束してその場に残した。見張りとして30名の兵と、グローサーを置いてくる。


ほとんどの兵が出撃していたと思われるドブール王国には、もう兵はほとんど残っていないと思われた。

「敵の城にはどれくらい兵がいると思う?」

「100もいねえと思うぞ」


多分、何の脈絡もないアズキの予想であるが、おそらくそれほど遠い数字ではないだろう。多くて100、少なければ50ほどしかいないと思われる。


戦闘のあったルソー平原から西に3キロほど移動した場所に、ドブール王国の主城である、シュタット城が見えてきた。


城壁の高さは10m近くあり、全面石垣に囲まれたその外観から、うちの城とは比べようがないほど城っぽさを感じる。


「アズキ、あの城壁登れる?」

何気なく聞いて見ると、軽く答えてくる。

「あれくらいなら、いけんじゃねえか」

「それじゃ、城壁を登って、門を開けてくれるか」

「了解、了解。任せとけ」


ガゼン兄弟には、門が開いたら、兵を率いて城へ突入するように指示をした。



「何! アースレイン王国が攻めてきたじゃと・・どういうことじゃ、ワシの軍隊はどうした」

「わかりません・・」

兵士がそう答えると、ドブール王国の国王、ルサナン三世は青ざめた顔をする。

「どういうことじゃ・・アースレインの兵など50もいないはずではないのか・・兵を300も送って負けるとはどういうことじゃ」

「何が起こっているか私には・・」

「それでアースレインはどれくらいの兵で攻めてきたのじゃ」

「100ほどでございます」

「くっ・・・この城にはもう兵は50もいないのじゃぞ・・しかし・・敵も100くらいなら籠城すれば守ることもできるかもしれぬな・・よし、籠城戦の準備をしろ!」

「はっ」


ルサナン三世は籠城することを選択して、守りに徹するように指示を出した。しかし、この時点で、城壁を駆け上がったアズキにより、城の門は簡単に開け離れて、アースレイン軍がなだれ込んできていた。


数にも劣り、不意を突かれたドブール軍は、ほとんど抵抗もできずに制圧されていく。


「なんじゃ・・どうしてじゃ・・協定を結んでいた前アースレイン王が死んで、やっとアースレインを我が物にできると思っただけなのに・・我が国より弱小の国であるアースレインなど、簡単に吸収できるのではなかったのか・・・なぜこうなるのじゃ」


「それは本質を見る目を持ってないからだよ」


そこには、赤毛の敵軍将校が立っていた。

「お前は何者じゃ!」

「お初にお目にかかります、ドブール国王。俺は新アースレイン王国の国王、エイメル・アースレインです」


「お・・お前が新しいアースレイン王か・・・そうじゃ・・和平じゃ・・協定じゃ・・ここは平和的な解決をせぬか? どうじゃ、お前の言う通りに協定を組んで良いぞ。悪い話ではないじゃろ・・」


「いえ・・それはできません。あなたの選択は二つです。ここで討ち死にするか、国を捨ててどこかへ逃げるか・・逃げるのなら追いはしませんけど・・」

「・・・・・バカにするなよ若造が! 貴様ごとき・・斬り伏せてくれるわ!」


「残念です」


裕太はそう言って剣を抜くと、苦しまぬように一刀で斬り伏せた。人を初めて殺した・・普通の高校生であった自分が、平気で人を殺せた・・多分それは、本来のエイメルの記憶や、感情が影響しているのかもしれない。この世界ではそれだけ、敵を殺すという行為が普通であることを意味していた。


「ドブール王は討った! ドブールの兵たちは抵抗をやめて、我々に従うがいい。悪いようにはしない。それはアースレイン王の名において誓う」


それを聞いたドブールの兵は、剣を捨ててそれに従った。俺は1日で、自分の国より数倍でかい国を制圧して、その領土を拡大した。


しかし、ここで一つ問題が・・他国を制圧したのはいいけど、この後はどうすればいいんだ・・ちょっと想像もできないので、リュジャナに相談することにした。


「・・・で、国を制圧した後の処理をどうすればいいいかって聞いてるの? なぜそんなこと私に聞くのよ」

「いや・・だってうちの国でそんな内政の問題とか詳しいの君しかいないじゃないか」

「・・まあ、いいわ。まず、各地の掌握。前の国の人材はそのまま使う気?」

「そのつもりだよ。ただでさえ人がいないからね」

「じゃあ、まずは頭だけすけ変えればいいか。まず、各地の監督官をどうするか考える。ドブールは三つの地があるから、アースレインのルノーと合わせて4の地があなたの領地になるから、4名の監督官を指名するのよ。内政はそれぞれの監督官に任せて、あなたは国全体を見ればいいの。とりあえず、今のドーブルの監督官を呼び出したら? もしかしたらそのまま使えるのもいるかもしれないし」


リュジャナの意見に従い、俺はドブールの各地の監督官を、シュタット城に呼び寄せた。それと同時に、軍事の処理も行う。


旧ドブールの将兵を城の庭へと集め、こう話を切り出した。

「ドブール王は死に、この国はアースレインに吸収されることになった。そこで、君たちに二つの選択肢を与えたいと思う」


それを聞いたギゴと言う名の兵隊長は、周りの隊長にこう話す。

「どうせ死か従属の二択だろ、悪いけど俺は死を選ぶぞ。あの王に義理があるわけでもないが、恥を忍んで生きる道を選ぶほど落ちぶれてはいない」


他の将兵たちも多くがそう思っていた。しかし、目の前の王は意外な提案をしてきたのである。

「ここに、金貨がある。もし、我が国に従属のであれば、一人金貨10枚を渡すので、去って行って構わない。我が国に従属して、この国に残ってくれるのなら、年間の給金は、現状より良くなることを約束する。どちらを選ぶのも自由だ。好きに選んでくれ」


ギゴは、それを聞いて呟く。

「生と生の選択か・・・まさかそんなものがあるとは思ってもいなかったぜ・・」


そしてギゴは、金貨を受け取らなかった。他の多くの将兵も、金貨を受け取らず、アースレイン王国に従属した。


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