第3話 吹けば飛ぶような小国の王

「もう直ぐでアースレイン王国のお城に到着だね。私、早くお風呂に入りたい」

アズキの乗る馬上で、ラスキーは嬉しそうにそう話す。妹の発言に、気になることがあるのか、アズキが俺に聞いてくる。


「それにしてもよう。お前その国の王様になるんだろう。どうして国の事、何も知らねえんだ?」


それに関しては俺も疑問に思っている。この世界で生きる上での最低限の知識や記憶が存在するのに、一番大事な、治めるはずの国の記憶が全くないとは・・


「俺にもわからないんだ・・」

正直にそう話すと、アズキは何を勘違いしたのか、深読みして、妙な納得をする。

「なるほどな・・複雑な事情があるみてえだな。あま気にするなよ。記憶喪失なんてよく聞く話だ」


まあ、確かに記憶喪失みたいなもんだけど・・


「それにしてもアズキたちはどうしてこっちに来たんだ。前はどこで何してたんだ?」


そう聞かれたアズキの表情が少し変わる。何かモゴモゴ言おうとしているが言葉が出ないようである。そんな姉に変わって、妹のラスキーが説明してくれた。


「お姉ちゃん、前居た国で、腕っ節だけでどんどん出世して、将軍までになったんだけど。そこの国の王子にお尻触られたのを激怒して、その王子の顔を原型が分からないくらいにボコボコにぶん殴っちゃって・・・お尻を触った王子が悪いかもしれないけど、さすがにやりすぎだってことになって将軍は首、国外追放されちゃった」


なんかその時の状況が手に取るようにわかるのはなぜだろう・・

「まあ、死罪とかにならなくてよかったね・・」

「さすがに死罪とかにしちゃったら、お姉ちゃん何するかわからないから怖かったんだと思うよ」


国がビビるってどんだけだよ・・俺も気をつけないと。


「城が見えてきたよ」


ラスキーにそう言われて、俺は進行方向を見た。薄暗く日が沈んだ夜空の先に、壮大にそびえる、巨大なお城が・・見えてはいなかった。てか・・城なのかあれ・・どうひいき目に見ても、丘の上に立つ別荘って感じなんだけど・・


俺が言葉を失っていると、アズキがすごく正直に感想を述べてくれた。

「なんだよあのちまっこいの。あれじゃあ、城じゃなくて家だぜ家」

「お姉ちゃん! そこにお世話になるんだから・・」

「おう。悪い悪い。まあ、あれだ、城なんておめえがでっかくすればいいだけだの話だからな」


家・・正しい表現だよな。城壁もなんか木でできた薄いものだし、あんなの敵に攻められたら一溜まりもないんじゃないだろうか。


城の前には、一応門番が二人立っていた。俺はその門番に近づき話しかける。

「中に入りたいんだけどいいかな?」

門番は厳しい顔でこう返答する。

「なんだお前は。ここはこんなボロ屋敷だがこの国の主城だぞ。簡単にはいそうですかと入れるところじゃない」

「え・・と。俺はエイメル・アースレインなんだけど・・聞いてない?」


それを聞いた門番は顔色を変える。すぐに丁重に中へと案内してくれた。中に入ると、すぐに初老の男が走り近づいてくる。

「エイメル様。お久しぶりでございます。お待ちしておりました」

国の記憶のない俺には、もちろんこの人物の記憶もない。返事に困っていると、向こうの方から話を進めてくれた。

「そうでございますね、エイメル様がこの城を出てルウガへ旅たたれたのはもう10年も前の話。その当時のエイメル様はまだ幼く、私を覚えていなくても仕方ないことでございます。私はアースレイン王国の宰相にて、王家執事長のゼダーダンにございます」


「うっすらと覚えてるよゼダーダン」

本当は一ミリも覚えてないのだが気を使ってそう答える。そう聞いたゼダーダンは嬉しそうに微笑む。俺の後ろにいたラスキーとアズキに気がついた彼はそれを聞いてくる。

「エイメル様。そのお二人はどなたですか?」

「え・・と。ちょっとした縁で家臣に取り立てたアズキ・ルィボスとその妹のラスキー・ルィボスだよ。彼らも長旅で疲れてるみたいだから世話してもらえるかな」

「かしこまりました。お二人ともこちらへ、お部屋を用意いたします。エイメル様本日はもう遅いです。昔の部屋がそのままですので、そちらでお休みください」

「え・・と。部屋ってどこだっけ?」

「モーリー。エイメル様を部屋に案内してください」


モーリーと呼ばれたのは、ゼダーダンの後ろに控えていたメイド風の女性である。彼女は俺に深々とお辞儀をすると、部屋へと案内し始めた。


昔の自室と言われる部屋に入ると、中を細かく見ていくが、全く記憶がない。さすがにこれは意図的な悪意を感じる・・・俺はおそらくこの状況を見ているだろう神へと話しかけた。


「おい神・・・聞いてるだろ。これは一体どういうことだ? なぜ俺の国はこんなに小さい。大国の王じゃなかったのか」


どこからともなく声が響いてくる。

「すまん・・本当にすまん・・大国の王の数が一つ足らんかったのじゃ・・」

「にしても小さすぎないか? 聞けば吹けば飛ぶような小国らしいぞ。大国とまではいかないまでも普通の国の王は用意できなかったのかよ」

「最もな話じゃが、魂の空きがある王でなければダメだったのじゃ・・」

「なんだよ魂の空きって・・まあ、神でもどうしようも無いって言いたいんだろう。しょうがないからこれでいいけど、なんか埋め合わせしてくれるよな」


少し強めにそう言ってみた。すると効果があったのか神がこう返答してくる。

「そうじゃのう・・それではお主には特殊能力を二つ授けることにしよう」

「特殊能力? なんだよそれ」

「ランダムで付与される神の加護じゃ。本当は一人一つだけなのじゃが、お主には二つ付けてやろう」


それがどんなものかはわからなかったけど、神の加護というくらいだからそれ相応の効果があると思われる。

「仕方ないな・・それで手を打つよ・・」

「おおおっ、やはりお主ならそう言ってくれると思ったわ」

「ちょっと待て・・その条件で納得するような奴で俺を選んだのか?」

「あ・・・いやそういうわけでは・・・まあなんだ・・それでは頑張ってくれたまえ」

「おい神! くそ・・・逃げたか・・・」


とりあえず神に文句も言えたし、俺はベッドで一眠りすることにした。明日からは王としてバリバリ働き、この国を大きくしていかなければ・・でないとクラスの連中にバカにされる・・そんなことを考えていると、俺は眠りの世界へと落ちていった。







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