第2話 始まりの出会い

俺が意識を取り戻したのは、消えかけの焚き火の前で毛布にくるまった状態であった。記憶が少し混乱しているので目をつぶって整理してみた。今の状況・・俺はエイメル・アースレイン。ルウガにある寺院から、父親が治めていた国へと移動している途中で、日が暮れたのでここで野宿していた。


ルウガでは剣の修行と、学問を学び。まだ2年ほどそこで暮らす予定であったが、父親の死によって国へと呼び戻されることになった。と、こんな感じで記憶が流れるが、実際はそんな感覚は全くなく、ただ、この新しい人生に最低限の必要な記憶は保持しているようであった。そんな感じでここでの記憶はあるが、基本はやはりエイメル・アースレインではなく、飛田裕太とびたゆうたで安心する。


毛布を荷物の上に置くと、俺は近くにあった川へと歩いていく。そこで顔を洗い、水辺に映る自分の姿を確認する。年は現世の年齢の同じくらいかな、赤髪に整った顔・・うん・・これは元の顔よりかなり良くなったんじゃないだろうか。だいぶ男前になった容姿であるが、面影というか、雰囲気は前の自分を残しているような気がする。


早く自分の国が見たい事もあり(大体の場所はわかるけど、なぜか国の記憶が全く無い)、そろそろ出発することにした。焚き火を消して、馬に荷物を載せると、俺は自分の国へ向かって出発した。しかし、しばらく山道を進んでいると、甲高い女性の声が響き渡る。俺は馬を蹴ってその場へと急いだ。


「へへへっ・・こんな場所を一人で歩いてちゃ危険だよお嬢ちゃん!」

「ひ・・一人じゃ無いです・・姉が近くにいます・・姉はとっても強いんですよ・・」


「ほほう・・女がまだいるのか・・」

そう言うと、太った大柄な男は、ニタニタと気持ち悪い笑い方で目の前の少女を見つめる。少女はそんな男の目線が心底怖いのか、目をつぶってその場に座り込んでしまった。


「二人とも俺が優しくしてやるから安心しな。へへへっ」

太った男が、その少女の手を掴もうとした時、裕太がその場へと到着した。


「何をやってるそこの豚男!」

馬から飛び降りながら、太った男にそう言い放つ。男はすぐに裕太を睨むと、持っていた斧を構えて、醜い叫び声をあげた。

「何じゃぁ貴様!! 邪魔するんじゃないぞー!」


裕太は剣を鞘から抜いて、すぐにその太った男の足を切り裂いた。男はもっと醜い鳴き声をあげてその場に崩れ落ちた。

「うぎゃあああああ!」


さらに剣を構えて男を睨みつけると、切られた足をかばいながら、太った男は転がるように逃げていく。


「大丈夫?」

裕太は、少女に近づきそう声をかけた。震える少女は恐る恐る顔をあげて、自分を助けてくれたでろう人物の顔を見た。そこにいたのは・・少女にとって完全なるドストライクの赤髪の好青年であった。


「あ・・・・」

お礼を言おうとしたが、あまりにも胸がドキドキして言葉が出ない。少女がモジモジしていると、後ろから激しい声が響き渡った。


「ラスキー!! 今助けるぞ!!」

「え・・お姉ちゃん?」


突然現れたのは軽装鎧を着た、女剣士であった。女剣士は走り寄りながら剣を抜くと、すぐに裕太に切りかかった。


裕太はとっさにその攻撃を自分の剣で受けると、誤解を解くために、すぐにその女剣士に話しかけた。

「ちょっと待って! 俺は・・・」

「問答無用!」


その女剣士の剣は凄まじく、一撃受けるたびに腕が痺れる。おかしい・・俺たちは超人的な強さになっているはずなのに、女の剣士一人をいなすこともできず、いや、いなすどころか防戦一方ってどうなってんだよ・・


神様の仕事を疑い始めた時、女剣士の必殺の一撃が放たれた。俺は後方に激しく飛ばされ木に激突する。太い木が吹き飛ぶほどの重い衝撃に気を失いそうになる。フラフラと立ち上がる俺に向かって、女剣士はさらにトドメを刺す為に走り寄ってきていた。


「お姉ちゃん! その人は違うよ!」


女剣士にラスキーと呼ばれた少女が叫んだ。このままでは初恋の人が姉に殺されてしまう。少女は勇気を振り絞り、生まれてこれまでで最大音量の声を発していた。


さすがに妹のその心の叫びを聞いた女剣士の動きが止まる。女剣士は妹に振り返ると、あっけらかんと怖いことを言う。

「何言ってる。違わないぞラスキー」

「いや・・その人は私を助けてくれた人ですから・・」

「そうなのか?」

「そうです。私を襲った人はもう逃げちゃいましたよ」

「・・・」


女剣士は剣を収め、裕太の元へ歩いて近く。そして手で体の汚れを叩きながらこう言う。

「ごめんごめん。なんか間違いだったみたいだ」

「いえ・・わかってくれて良かったです・・」


ラスキーも裕太に近づいてきて必死に謝る。

「ほんとうにすみません! 姉はちょっとあれなんです! ごめんなさい」

「まあ、怪我もないし、大丈夫だから気にしないで」


裕太は必死に謝るその少女にそう答える。姉の方は、謝罪もそこそこに、変な関心を口にし始めた。

「それにしても今の攻撃でよく死ななかったな、普通死ぬぞ。お前相当強いだろ」

「え・・と。そこそこ強いみたいです・・」


かなり強いと思い込んでいたのだが、彼女との出会いで、その自信は揺らいでいた。


「お姉ちゃん。その人は私を助けてくれた人だって! そんな言い方ないでしょう」

「だってよう、すごくないか。さっきの攻撃は地竜を一撃で倒した時くらいの威力があったと思うぞー」

「だからそんなことじゃなくて、ちゃんとお礼を言ってよ」

「わかったって・・え・・と。妹を助けてくれたみたいだな、礼を言わせてもらうよ。私はアズキ・ルィボス。妹はラスキー・ルィボスだ。で、お前の名前はなんだ?」


うむ、どうもこの姉の方は礼儀というか、言葉の使い方というか、その辺が欠損しているようである。しかし、そんな相手でも、俺は丁寧に自分の紹介をする。

「俺はとび・・いやエイメル・アースレインと言います」

「アースレイン・・どこかで聞いたことある名だな・・アースレイン・・アースレイン・・」

「お姉ちゃんが思い出そうとしてるのはアースレイン王国のことじゃない」


アズキは妹の指摘で、手をポンと叩くと何かを思い出したようなリアクションをする。

「思い出した。丁度、今、向かっている国の名前じゃねえか・・うん? と言うことは・・お前、アースレイン王国の関係者か?」


「まあ・・関係者と言うか・・今からそこの王様になりに行くんだ」

「なんだと!」

「まあ・・素敵・・」


裕太のことを好意の目で見ていたラスキーは、その話を聞いて、さらに露骨な興味を裕太に向けた。

「お姉ちゃん・・仕官の話、アースレイン王国に決めてちょうだい」

「え? 何言ってんだよラスキー。アースレイン王国は吹けば飛ぶような小国だから、素通りするだけで、その先のルボン国に仕官しようってラスキーが言ったんじゃんか・・うっ・・」


アズキは、ラスキーの肘打ちに言葉を止める。

「と、言うことで、この不肖の姉を、どうかエイメル様の国でお雇いくださいませんか? もちろんお給金は格安で構いませんし、死なない程度にこき使っても問題ありません」

「ええええ!」


思わぬ話に、俺は驚いたが、あの戦闘力である。アズキを雇うのには問題ないように感じた。それよりすごく気になることを言ってたな・・吹けば飛ぶような小国・・

「え・・・と。アズキ本人が良ければ俺は問題ないけど・・・」

「まあ・・あれだけ強え奴の下でなら働いてやってもいいけどよ・・」


それを聞いたラスキーはにっこりと微笑む。


こうして、まだ自分の国にも着かないうちに、家臣が増えてしまった。吹けば飛ぶような小国という言葉が頭の中で響く中、得体の知れない不安が近づいているのを感じていた。



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