第7話

「先輩。少しよろしいでしょうか。」




筋トレを命じた男子に対し、食ってかかる千桜ちはる




「ん?どうかした?腕立ては?」







「この腕立てに、どんな意味があるのでしょうか?」














その発言に、部内の空気が凍り付く。












「いやいや、先輩がやれって言ってるんだから、やれよ。」




「この腕立てに、弓道が上手になる要素はないと思うんですけど・・・」












「いや、弓引くときに必要でしょ?」




「弓道で大事なのは、腕の力で弓を引くことではないと思います。」














「あのさ、先輩の言うことくらい聞こうよ。」






「後輩の疑問に答えることも、先輩の役目の一つだと思いますが。」










「あーもうめんどくせぇな!いちいち盾突いてくんなよ!」



ついに激突しようかとした、その時だった。











「どうした?揉め事か?」




「そんなに大きな声・・・いつも出してるけど、いつもと違うわね?」







「部長!副部長!」










部長の火野さつき


その名前とは対照的に、まさに大和撫子を体現していると言わんばかりの



清楚さと儚さを併せ持つ、柔らかな水の流れのような人物だった。








副部長の水沢近徳みずさわちかのりも同様に




名前とは裏腹な、強気の姿勢に違わぬ実力で相手にものを言わせぬ




まさに火炎のような人物であった。












「部長!コイツが筋トレを嫌だからって、やる意味を教えろって言い出して・・・」





「それで?君はちゃんと答えたんだろう?」





副部長が割って話に入る。








「はい。弓を引くのに必要だと。」





「そうだな。それで、君はそれのどこに疑問があるんだ?」





次に千桜ちはるに向かって問いかける。





「私は・・・」




千桜ちはるが答えようとすると












「ちょっと!君とかコイツとか、そんな言い方はどうなの?」





部長がものすごい勢いで噛みついてくる。





「・・・火野。今そこについて議論は」







「部員同士、ちゃんと名前で呼び合わなきゃ。」








「そう思わない?夕姫千桜ゆうきちはるさん?」





千桜ちはるは驚いた。







部長が、部員のフルネーム

ましてや入ったばかりの新入部員の名前を記憶しているとは。











「すごい面くらってるわね。私ね、人の顔と名前覚えるの得意なの。」




「フルネームで呼ばれたのは、初めてだったので・・・」



驚く千桜ちはるを横目に、部長はマシンガントークを続ける。





「そうなんだ!ね、千桜ちはるだから・・・ちーちゃん!」





「ありきたりかもしれないけど、ちーちゃんって呼ばせてもらうわね!」






断る暇もないまま、あだ名を付けられてしまった。











「オホン!!!」



やっと見つけた間を副部長は見逃さない。





「で、夕姫さんは、どうして筋トレが弓を引くのに必要かわからないと。」




「はい。今やっている腕立て伏せについては、意味がないと思います。」






「どうして、そう思う?」







「弓は、腕力で引くものではないと思うからです。」






「・・・ほう。何やら知ったような口ぶりだね。」




「申し訳ないが、2~3回、教えられたとおりに腕立てをしてくれないか?」




「え?あ、はい。」





先輩に教えられたとおりに、腕立て伏せを始める。





「なるほど。これは確かに意味がないな。」




「そうね。これは・・・」





「教え方が悪い(わ)。」









部内の空気は、さらに凍り付くのであった。

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