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「何か飲む?」

「コーヒーがいいな」

「ここ喫茶店じゃないんですけど」

「ケチケチしないでよ。そうちゃんのコーヒーが飲みたいの」

 ・・・まぁ一杯くらいなら。なんて俺も甘やかしているのも悪いのか。

「それ、苦しくないの」

「え、胸?」

「いつも思うけど、それどうなってんの」

 リンは日によって女だったり男だったりするから。

「やだ、そうちゃんったらヤラシイ。どうする? 見て確認する?」

「御遠慮」

 胸元に手を掛けたリンに即座に答える。ご自慢のおっぱいをこんな所で放り出されても困る。俺が気になっているのはどうやって収納させているか、だ。

「あぁこれはね、胸を潰してその下にタオルを仕込んで、段差をなくして自然に見せてるのよ」

「へぇ大変だな」

「最初は大変だったけどね、慣れれば平気」

 リンの自然な姿、それは男と女の要素を合わせ持つ身体だ。もちろん胸は天然ものじゃない。

 人間が好きだから、両方になりたかったらしい。そう言って本当になれたのだから、こいつはある意味とんでもなく凄い人物なのだろう。なんで俺、友達出来ているのかたまに分からなくなる。

「類は友を呼ぶってね」

「女装癖すらないのに?」

「根が似ているのよ。あたしたち三人はね」

「えー、勘弁してよ」

「しなーい」

 けらけらとリンは楽しそうに笑う。俺としては不本意なんだけど?

「っとコーヒーごちそう様。また後で来るね」

 リンはカップを空にするとそう言って立ち上がった。え、何の話?

「何って、今日ミケの店にホワイトデーのお返しする日でしょ?」

 確かに。今日はホワイトデー前日だし、バレンタインにチョコを貰ったミケの店のスタッフにお返しをする予定だ。閉店後に好きな酒を一杯奢るってやつ。

「それが何」

「あたしもあげたの忘れたの?」

「何の話?」

「えー、あげたでしょ。そうちゃんの好きなチョコ」

 ・・・もしかして一つだけ超高級なチョコが混じっていた、アレ? 

「ミケが言い忘れていたのね。全くあのネコったら。まぁいいや、あたしも仕事終わったらすぐに来るから。じゃね」

 軽やかにドアのベルを鳴らしてリンは去って行った。去年までそんなのなかったじゃん。なんか嫌な予感しかしな・・・

「・・・よし、仕事しよ」

 あと数時間は時間がある。それまでリンのことは忘れることにしよう。

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