夜さりどきの化石たち

佐々木海月

1

「海の底にいるみたいだ」

 ヨサリが呟いた。凍えた唇から、白い息がわずかに零れた。そして、それはそのまま、夜に融けていった。

「海の底に、雪は降らねえだろ」

 ユウは言った。かじかんだ指をすり合わせながら、空を見上げる。真っ黒な空から、雪が絶えることなくおりてくる。吸い込まれるような感覚に、一瞬、目眩がした。

「降るよ」

 ヨサリは言う。

「海の底にも、雪は降るんだ」

 見たことはないけれど、と、同じように空を見上げて言う。そして、降りしきる雪を受け止めるように、両手を差し出した。

 ユウは、胸中でため息をついた。

(海の底だって?)

 テレビのニュースでは、半世紀に一度の大雪だと言っていた。浮かれるのも仕方がない。けれど、夜遅くにふらふらと出歩くのは、浮かれ過ぎではないかと思った。

(分かりにくいんだよ、お前は)

 ユウは、ため息をついた。

 ヨサリは穏やかな表情のままで、囁くような声で、目一杯はしゃいでいるつもりなのだ。それを「大人びている」などと表現するのは、きっと間違いだ。ただ、彼はこの暗く深い夜に、彼なりに気をつかっているのだ。

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