第35話 悩める相沢誠


相沢誠は全てにおいて余念のない

男だ。


朝はモーニンコーヒー片手にキャバ嬢並みに

五紙以上の新聞を優雅に読む。

株価やレートのチェックも怠らない。


優雅にモーツアルトを聞きながら

運ばれる朝食を口にして出勤するのが日課だ。


アレ以来…「好きだ 」の告白以来、

僕の狼狽振りは半端ない。

新聞読んでると、

「誠、新聞逆さまよ 」長女

「シャツ裏じゃない」次女

「靴下左右違うわよ」三女 揃って含み笑い。


『わ、分かってるよ!」逃げ去る。

意地の悪い姉貴達にこんな隙だらけで…

鳩に突かれるバナナチップス同然だ。

今の僕は皿隠されても、砂糖と塩間違え

られても、悪いもの盛られても気が付かない

だろう… 落胆する。


「暫く別邸へ行く 」大田原に告げ家を出る。

個人所有のマンションだ。

会議の資料を忘れ、買い物の会計を忘れ

パスモ通すの忘れ、まるでLINEスタンプ

みたいに腑抜けで帰宅する。

部屋で考える。

かつて告ったことも告られたこともある。

だが、あんな衝動的に後先考えずに、しかも

親友の彼女に告るなんて

『 どうかしてる』

「略奪 ドロ沼 ゲス」とか姑息なことが

大嫌いな相沢は自分に辟易する。


気分転換に散歩でもしよう…

ブラブラ街中を歩きカップルを見ては

羨望を隠せない相沢…

ハタと気がつく。財布も携帯もそして

家の鍵さえ持っていないことに…タラー

「カードキーですからね、お出かけの際は

呉々も注意なさってください」

不動産屋の説明を

「馬鹿な…」とろくに聞いていなかったが

今なら全力で聞く。

「 なんてことだ… 」1円も10円もI.D.も無い。

王家の紋章のように都合よくタイム

スリップ出来ないだろうか?

警察官を視界に捉える。

「 お巡りさん今の僕を職質して下さい」

目で訴える。だが怪しい人間とも

思ってもらえない…

『どうしたものか」思案していると

「若…」背後から声

「大田原…」泣きそうになるほど

嬉しいのに

「 なにしてる?」ツンデレ

「ハラハラしながら見ておりました」

必要なモノ一式が渡される。

「 若、少し頭を冷やしてください」

立ち去る大田原の背を見送る。


部屋で『Sweet November 』を見る。

全てをサクラさんに置き換えてしまう

恋愛熱の冷めやらぬ相沢であった。

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