第9話 一球入魂


素敵女子 VS 不器用女子 番外編


『一球入魂』


『コートの上は闘いの場だ。

例え女とて容赦しない…』僕はジリジリしながら

花園サクラとラリーを始めた。


シャトルがシュッと音を立てて弧を描いて

遠くまで飛ぶ。面の真ん中に当たらない

限りこの音は出ない。かなり打ち慣れている。

「バド歴何年だ?」

「5年です。」そんなはずはない。これは10年

選手の人間の打ち方だ。やっぱり姉貴の

ように本性隠しだ。

「それにしてはいいシャトルの飛び方だ」

「練習したので」アクエリアスをグビグビのみ

コートでヒートアップしたシャトルを淡々と

打ち返すサクラ…今度は容赦なくスマッシュ

する。何度もレシーブして返してくる。


シングルの試合でセットカウントが同じに

なった時、僕のスポ根に火がついた。

その辺の女の子がよく口にする

「出来なぁ〜い、もう無理〜」

はサクラにはない。

僕にポイントを取られるとキッとなって奪い返してくる。キュッという靴の音とシュッという

シャトルの音しかなかった。

まさに『死闘』だった。

僕は面子を保ち勝利した。まぁ腕力的に有利

ながら、コートの四隅へ揺さぶるという

テクニックを使った。

「容赦しなくて悪かったな。」という僕に

「容赦されたら困るんです。」とサクラは

真顔で答えた。


僕は体育祭系のガッツを感じ取り、汗を拭い

た後すこし間を置いてから聞いた。

「君にとってスポーツ上『楽しい』とはなんだ?」とやや難易度の

高い質問をした。楽しいは人によって定義が

違う。これほど曖昧で、不確かな言葉はない。

テキトーにやって楽しいとか、

気分転換で楽しいという人間を大勢見てきた。

花園サクラは真面目に考え込む。

「スポーツ、ことバドミントンに関して言う

なら追い込み、追い込まれ、全力でラリー

して勝利することです。」サクラの言葉に

熱くなる。

「全力だよな?」満足気味に言う。

「はい。」臆することなく答える。

「ほう、で今の気分は?」

「無茶苦茶悔しいです。」

「もう1勝負するか?」「はい。」


この『The 体育祭系』のノリで通用する人間は

そうそういない。『稀有』な存在だと、

同士を見い出した思いで喜びが溢れる。

結局何試合かをしてしまった。その後女子

禁制会員制ラウンジに例外的に呼ぶことにした。


僕たちはそこで『楽しい』の定義を再認識

し合いあった。

「楽しいって難しいですよね。」とサクラ

「曖昧だし、人によるからな」

「厳しさを乗り越えた先にチラッと見え隠れ

するのが楽しさなんですけどね」

僕はニヤッとする。

『同種族だ』そうだなと言い続けた。

「結局どこまでストイックになれるかって話で

それを追求してない人間には暑苦しいだけの

話しだからな。」

「同士に巡り会えた気分です。」

今度はサクラが言った。


僕は豪快に笑い、後日自分の別邸である屋敷に

招待してそしてビュッフェパーティー

にしようと提案した。サクラは頷き少し

躊躇いながら、散々コーヒーを飲んだ後で

「あの、アイスコーヒー飲んでもいいですか?」と言ってまた僕を笑わせた。

「コピルアクので淹れさせるよ。」

「あの幻の?幻が今日飲めるんですね。」

と乙女らしく喜んだ。


そのときの時間、リオ五輪で金メダルを取った

あの時の興奮を互いに分かち合った。

「オリンピックの定番ソングは絶対に栄光への架け橋であるべきだ」で「同感」1時間は盛り上がった。


そしてバド試合の話

「私、ダメなんですよー。自分が応援した

試合は全部傾いて…」

「傾くって?」

「負に軍配が上がるんです。」

「それは、疫病神だな。」

「そう、だから応援しちゃいけない見ちゃ

いけないと思いながら見てました」

「まぁ、そうゆうものだろ。」

「あの時のあの試合に関しては、もうそうゆうの

どこか吹っ飛んでました。」

「世紀の一戦だからな」

「そうです。私も同様に考え命名しました。

この瞬間、見逃したらそれはもうバド族愛好家

としてあり得ないと思い見てました。」

『あれは、泣けたな」誰にも言ったことが

なかったのについ口をついて出た。

「はい。泣きました。」


僕たちはスポーツをストイックに愛しすぎる

『同士』として互いを認め合い握手を交わした。


ビュッフェの席で、相沢宝飾のキラキラ御曹司

と知ったサクラは驚愕して腰を反らす。

「僕にとって宝石はその辺の石ころと大差ないんだ。所詮は虚構でしかない。」

「相沢さん、それは絶対にもったいないです。

宝石は神秘なんです。」

彼女はすこし酒の力を借りながら、スワロフスキーの時計を翳して熱弁を振るった。

和葉がそこへやってきて

「楽しそうだな」と加わる。

「嗚呼、この世界も悪くないな…」欺瞞に

満ちたこの宝飾ので世界でそう思えた。


僕は和葉をからかってみたくなる。

「和葉、サクラさんお前から奪ってもいいか?」

耳打ちすると

和葉は「全力で受けて立つ。」と全身から

火花を散らした。

「冗談だよ。」僕がそう言うと

「らしくない冗談だ。」懐疑的な顔をした。

「いいからサクラさんを送ってやれ」

和葉はサクラの手を取る。

サクラは初対面の時の淑やかな女性に戻っていた。チクッ僕の胸を締め付けるナニカ…


「花園サクラ、実に魅力的だ」会場から去る

2人を見送った。


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