第6話御曹司 相沢
僕が『御曹司』であることは物心ついた
時から自覚すると同時にさせられてきた。
相沢宝飾の創始者の祖父を筆頭に、家族、
親族はそれ相当の地位を持つ。
『ホンモノを見抜く』を家訓に育つ。
着飾り気取り内心で人を見透かすような
世界で育って自分は少し屈折している気がした。
大学時代に和葉に出会い等身大で付き合える
人間にやっと巡り会えた気がした。心許せる
数少ない人間の一人だ。サクラ達も同様に…
それなのに一体どうしたことだ。
ランドマークの雑踏の中で絶好のタイミングで
花園サクラを見付ける。
スワロフスキーの店前で照明に
光るジュエリーの前に立っていた。
「やぁ。」声を掛けると驚いた様子で振り返る。
「どうも、こんばんは。」少し照れた顔が
可愛い。
「何してるんだ?」
「見てるんです。光の照明」
「なにか欲しいモノはないのか?」
「まぁ、そこそこ…ボーナスとか出たら。」
「店ごと買ってやろうか?」
「えっ?」驚いて目を見開く。
「冗談だよ。」
『あんたが言うとシャレになってない』
「試合に勝てたら買ってやる」
ニヤリと相沢が笑う。
少し睨んだ私に今度は真顔で
「和葉となにかお揃いにしたいなら話しつけて
こようか?」店員に声を掛ける勢いだ。
店長らしき男性は相沢を捉えそわそわして
いる。
「待ったー!ダメです。ジュエリーは独自の
センスで選びます。」
相沢さんにとっては他愛もないことでも
一般の自分にしたら大ごとだ。
「そうか。今日は和葉と待ち合わせ?」
「いえ、ただブラブラしてるだけです。」
少し考えた末に
「なら少し時間をもらえないか?」と相沢。
「なんのために?」サクラが答える。
「哲学者みたいだな」唸る相沢にサクラが
吹き出す。
「まぁ、相談的なことだ」
「フキタさんのことですか?」
「それも含めて」相沢さんは少し困った切羽詰まった顔をしている。
「いいですよ。」誰に誤解もされないだろう…
サクラはそう判断して相沢の背中の後
に続く。彼は迷うことなく一流ラウンジに
直行する。
少し前のサクラならアタフタしていたが、
相沢さんを知った今特に戸惑うこともない。
コーヒーを啜りながら長い沈黙が続く。
2人とも話し下手だ。とりとめのない世間話し
をサラリとする器用さを持ち合わせていない。
全く知らない関係なら居心地悪いが、互いの
そうゆう部分分かっているから特に言葉を
探さない。
「僕は不埒な人間だろうか?」唐突に相沢さんが切り出す。
『どうした御曹司』
「どうゆうことですか?」
「亜李酥さんという素敵な女性がいながら
ある女性のことが頭から離れない…」
ジッとサクラを見つめる。
「相沢さん?」サクラはここに来たことが失敗
だったかと躊躇う。以前の和葉の言葉を思い出す。
「例え相談でも2人きりにならない」
しどろもどろになりながら
「あ、相沢さん、わたしには和葉さんという素敵な男性がいて…相沢さんがどれだけ財力を重ねてもそれはそのなんてゆうか…」
相沢さんは真顔のまま吹き出す。
「和葉が君に夢中な理由が少し分かった」
『おやっ?じゃ一体なんなの?』
「君の友人の舞子さん、彼女が頭から離れない」
『なんだバド友のマコちゃんかー』サクラはホッとすると同時にニンマリする。
「そのことフキタさんは?」
「亜李酥さんにも気になる女性の話しはした。」
『わざわざしなくても』
「フキタさんとのことはともかく、舞子はとても良い子です。素朴で純粋で…
舞子が気になるとからって不埒ってことには
ならないという思いますよ。」
「君は僕を愚劣とか卑劣とか軽蔑しないのか」
驚いた声を出す相沢さん。
「人の気持ちです。素直でありのままでいいじゃないですか。」
ホッとする相沢さん。軽く笑うサクラ
「なにが可笑しい?」
「天下の御曹司も普通の人だなって」
「からかうのか」
「この前試合でコテンパにされたお返しです。」 2人でまた黙々とコーヒーを啜る。
「相沢さん…」
「なんだ」
「ケーキ2個頼んでいいですか?」
「キミって人は…」苦笑する相沢さん。
「今度4人で出かけないか?いやその前に
舞子さんに特定の人はいないのか?」
「大丈夫ですよ。」ピースサインをして微笑んだ。
相沢の頬が緩むのをサクラは和やかな
気持ちで見入る。背後にはムーディーなジャズ
ミュージックが流れていた。
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